富裕層はなぜ海外移住するのか

加速する富裕層の海外移住

富裕層にとって税金の安い国、そして物価の安い国に住むことは選択肢として魅力的です。もちろん富裕層でなくてもそうでしょう。

財産管理の観点からかつてはシンガポールが人気を博しましたが、国民を第一に考えると海外富裕層の流入をただただ喜ぶわけにもいかず、受入人数、あるいは移住後にシンガポールで何をするかについての審査が厳しくなりました。単に移住して数年のんびり過ごそうくらいでは、ビザの更新ができず、帰国する羽目になってしまいます。

物価の安い東南アジアでは、タイやマレーシア、インドネシアが積極的に富裕層を受け入れています。もちろん、事業をしっかりしていれば、カナダやオーストラリアなども選択肢としては非常に魅力的です。

富裕層の海外移住方法は何か

富裕層にとっての海外移住の最もシンプルな方法は、投資家ビザによる永住権取得です。カナダやオーストラリア、ニュージーランドなどが有名でしたが、富裕層の移住は世界的な現象となったことで、打ち切りやハードルの引き上げが近年は目立ちます。特に中国人富裕層はもともと国外に出たい意欲が強かったことから、大きな流入に繋がり、そして不動産価格の高騰や地域コミュニティの変容をもたらしたと言われています。

それ以外だと、移住先の国でビジネスをすることが代表的です。現地に会社を設立して、実業から収入を得ることができれば、就労ビザを取得することができ、かつ生活が安定します。

海外移住前にまず考えることは資産フライト

日本は現在、国内資産の海外への流出について特段制約を設けていません。しかし、資産に対する課税の仕方は国ごとに異なっていますし、制約がないからといって課税がないわけでもありません。一度海外に出てしまうと、徴税権の及ぶ範囲が狭まってしまうからですね。

富裕層の場合、自身の移住に関しては家族のこともありますからやや時間をかけて進めていきますが、資産に関しては移住前からも進めることが可能です。その意味で、資産フライトの方が手軽なので、海外移住を頭の片隅に置きつつも、まずは資産フライトを考える、ことの方が普通のようです。

海外移住のメリットはどこにあるのか

海外移住した場合の生活面でのメリットの一つは、「周りを気にしなくて良いこと」だと言われます。ちょっと意外かもしれませんが、一財をなす、あるいは有名になった人は日本全国どこに行くにも気を遣わなければならないので、ひっそりとした別荘地や海外リゾート地を好むのと同じ理屈です。

他にも、子どもをよりインターナショナルな環境で育てることができますし、国によってはヘルパーを安く雇うことができるので、子育ての面でもメリットがあります。

もう一つの大きなメリットは、資産効率です。同じ資産であっても物価の低い国であれば生活費くらいではビクともしません。また、キャピタルゲインや配当、利息に対する課税がなければ資産を増やしやすいですし、贈与税がなければ誰かに渡すことも自由です。加えて、相続税がかからない国もあるので、その場合は、資産継承が極めて効率的になります。

相続税のためだけに海外に10年住むのは楽ではない

「海外で悠々自適に暮らすのも格好いい」そんなふうに思う人は少なくありません。実際、最初の数年間は新天地での生活に刺激を感じることでしょう。しかし、徐々に時が経つにつれ、「自分はなぜこんなことをしているのだろう」と思うようになるようです。それでも、5年くらいであれば我慢ができました。

転機は平成29年4月1日より相続税の取り扱いが改正されたことです。それまでは5年間海外に住んでいれば良かったものが、10年間、家族もろとも海外に住んでいなければ日本の相続税の対象になることになりました。

どんなに覚悟を決めて海外移住をしていても、10年間日本から出ている状態というのは途中で気持ちが途切れるらしく、お金よりも生活の質を求めて戻ってくる人もいます。日本がよほど住みにくい国にならない限りは10年という時を肯定できる要素は少ないのかもしれません。

海外移住したとしても相続税を免れない資産がある

注意したいのは、海外移住を10年したとしても、日本の不動産に関しては、国内資産であるため、相続税の対象になる、ということです。逆にこれは海外にいる外国人が日本の不動産を購入した場合も同じなので、富裕層独特の税制ではありません。ただし、海外に出ればあらゆる相続税から解放される、と勘違いしていると後悔することになります。

最後に

海外移住も楽ではないことは伝わったかと思いますが、一方で海外移住は個人の自由ですし、いくら制度設計をしても富裕層の海外移住を踏み止まらせる(あるいは自由を阻害する)ほどのものにはなり得ない面はあります。とはいえ、海外移住に向けては、様々な観点から、資産管理を綿密に設計しておくことが望ましいとは言えそうです。