富裕層とお付き合いをするプライベートバンカーはやはり高給取りで、キャリアや生活ともに安泰であるというイメージは強いですが、実際にはそうではないです。プライベートバンカーならではの悩みと、その先に見えてくる独立という選択肢について触れてみたいと思います。
プライベートバンカーは内部抗争に晒されている
「プライベートバンカーは顧客のことを最優先に考えている」このことは恐らく優秀なバンカーであれば持っている認識だと思いますが、残念ながら「顧客のことだけを考えていればいい」ということにはならなかったりします。
プライベートバンカーもまたどこかの金融機関に所属する人間である以上、仕事として所属金融機関に収益を落とす必要があります。もちろん、コールドコール(電話営業)をかけることは証券営業や不動産営業に比べれば相対的に少ないとは思いますが、営業成績が悪ければクビになります。
したがって、営業成績を上げるバンカーほど内部で高く評価されることに違いはなく、たとえ顧客情報を漏らさずとも、営業成績を上げるということはつまり顧客を抱えていることを意味するので、内部での顧客の奪い合いにも繋がり得ます。
組織的にプライベートバンカー同士の顧客情報のやり取りを防ぐ仕組みを採用する会社もありますが、上司部下の間では避けられないときもあり、嫌になったり、あるいは実際に顧客を奪われたりして辞める、あるいは独立という選択肢を模索する例もあるようです。
プライベートバンカーは顧客との信頼関係が大事
プライベートバンカーの仕事は所属金融機関の看板を背負って、宣伝して回ることではありません。もちろん、顧客の側からすれば最初の入り口では看板を見るしかないときもあり、非常に大事ではありますが、その後はやはり個々のプライベートバンカーの力量を図ることになります。受けられるサービスももちろんですが、何より信頼できるバンカーなのかどうかを重視する傾向があります。
逆に信頼関係が生まれたときには、家族ぐるみの付き合いになったり、あるいは家族に言えない話を共有されたり、そしてプライベートバンカーとして以外のことをお世話するようになったりもするため、純粋にプライベートバンカーでいることに窮屈さを感じることもあり、結果として独立という選択肢が生まれてくるようです。
独立すればノルマに捉われない働き方ができる
先述の内部抗争も然りですが、プライベートバンカーにも営業ノルマがあるケースが多いです。転職時には既存客を何人連れてこれるか、そして働き始めてから1年以内にうん億円の新規をとってくるように言われます。
もちろん、既存客だけで収益が出ることもありますが、組織としてより大きな収益を要求され、既存客のフォローもそこそこに、ひたすら新規に走り預かり資産を積み上げなければならないことすらあります。稼ぐことだけを目的にしたプライベートバンカーであればそれは悪くないことかもしれませんが、顧客の満足度は向上しません。
一方、独立することにより、ノルマはなくなることが多いようです。既往客がそれなりにいれば、スタッフの経費などを払った上で、安定軌道に乗ります。
その段階で新規を取りたいかどうかは組織の方向性の問題です。もし自分で会社を設立したのであれば、ノルマのない会社を経営すればいいのであって、同じようにプライベートバンカーの荒波から逃れたいという思いを共有する人と細々と運営していけば十分でしょう。
独立すれば長いお付き合いのお客さんと安心の関係が築ける
プライベートバンカーは所属する金融機関があります。もともと仕事柄、転勤や配転は多くありませんが、一方で、リストラの対象になることは十分に想定されます。
特に外資系の金融機関の場合、その地域でのビジネス拡大はそもそも事業戦略の一環であって、全体の収益見通しが悪くなった場合には、個々のプライベートバンカーの稼ぎとは関係なく、事業撤退をすることがあります。
「三世代にわたって」という言葉がプライベートバンク業界にはありますが、まさにそのような関係を築くことを目指すのであれば、ある意味独立しなければ達成できないこと、と言えるかもしれません。
独立後にプライベートバンカー以外の道を歩むことも少なくない
「独立した後もプライベートバンカーをしていたいか」という質問に対してノーというプライベートバンカーは多いと聞きます。なぜなのか。一つは営業や内部抗争に疲れてしまったから、もう一つは全く違う事業に取り組みたいという意欲に駆られたからということのようです。前者はさておき、後者は不思議な感覚かもしれません。
プライベートバンカーは長く続けることに意味のある仕事ですが、それゆえに同じことの繰り返しが続きます。最初は長く続けることに一生懸命だったプライベートバンカーも10年、15年と経つにつれて「少しは違う仕事をしてみたい」という欲求に駆られます。
また、プライベートバンクを利用する顧客も様々な業界のビジネスオーナーであるため、夢や苦労話に付き合っていると、「自分も何か新しいことをしてみたい」あるいはもっとシンプルに「お客さんのビジネスに参画したい」と思うことがあるようです。
プライベートとしての花道を独立で飾るには
以上のように、様々な悩みを持つプライベートバンカーですが、道半ばで挫折するのではなく、しっかりとした花道を歩くことをまずは最優先に考えるべきです。その道の先に「独立」の二文字があるのであれば、既往の顧客に迷惑をかけない方法を模索しながら、そのゴールに向かっていくことになります。