家族信託としてPTCを運営すべき理由

あるファミリーは、家族内で秩序だった関係があり、問題について話し合い、解決策を探る力があります。家族内外の変化に対応でき、4世代が関わっています。

一方、あるファミリーは、一代目が80歳になりますが承継プランは特にありません。家族やその弁護士は、今か今かと待つ“ハゲタカ”のような状態であり、家族経営会社も悲惨な状態です。

さて、あなたのファミリーはどちらに近いでしょうか。

「ファミリー資産は3世代をかけて消滅する」とよく言われますが、その呪縛から解放される方法はあるのでしょうか。

今回はその一つの解決策として利用される、Private Trust Company(PTC)のストラクチャーについてまとめてみます。

家族信託としてのトラストとPTC

相続税の問題に直面したとき、最も真っ直ぐな解決方法は、家族信託としてトラストに渡してしまうことです。

トラストの保有する資産は本人所有ではありませんから、相続税の問題から解放されます。また、亡くなった後に家族が資産を相続するために必要なプロベートも避けることが可能です。なぜなら、所有権の移転が起こらないからです。

しかし、ここでふと思います。トラストに渡してしまった資産に対してコントロールを失うことがデメリットだと。これに対する解決策として、PTCがしばしば提案されます。

PTCとは

PTCというのは、家族信託(Family Trust)に対して、受託者(Trustee)の役割を果たす会社のことです。

一つのファミリーでPTCの取締役会を形成し、受託者(Trustee)の意思決定を行います。

とまぁ、PTCの仕組み自体はいたってシンプルなのですが、“実践する”となるとなかなか上手くいきません。

受託者(Trustee)の役割とは

“正しく受託者(Trustee)として振る舞う”ために必要なことは以下の点が挙げられます。

  • 信託法に対する理解
  • 家族資産の相続手続きに対する理解
  • マネロン対策法に対する理解
  • トラストについての会計簿記
  • 税務報告書類(FATCA、CRS)
  • 投資資産のモニタリング
  • 家族構成員間のトラブルを避けたり、受益者同士の利害の調整を行ったりといったヒューマンマネジメント

このように受託者は様々な役割を演じる必要があるのです。

PTCを設立するメリットとは

通常のトラスト会社とPTCが異なるのは、受託者(Trustee)の意思決定とその資産に対する、コントロールを有する点です。資産を信託する行為は、贈与に該当しますが、PTCを用いれば、信託後の資産に関する投資意思決定を全てファミリーで行うことができます。

また、トラスト会社自体であれば本来保有したくないような、未上場株式などのいわゆる“ハイリスク”資産をPTCでは保有することができます。

また、PTCを通じて、家族事業に関する意思決定をする“議場”ができ、承継計画の大きな助けとなります。家族経営の会社の株式をトラストで保有すれば、取締役はその時々に応じて変更することができます。

PTCにおける事務(Administration)はどのようなものか

実際のところ、顧客となるファミリーは必ずしも受託者(Trustee)としての実務を行うだけの時間や経験が必要な訳ではありません。ライセンス登録されたトラスト会社がPTCをサポートすることは可能であり、この場合、事務委託契約(Administration Agreement)を締結します。

事務委託契約においては、会社秘書(Company Secretary)や会計、監査、税務を務めるほか、受託者会議にて議事録を書いたり、委託者(Settlors)や受益者(Beneficiaries)の税務対応について税理士と連携したりします。先に述べたような、ファミリーの方が“正しく受託者(Trustee)として振る舞う”ためのアドバイスも提供します。

PTCの要は「世代継承」

何度も“正しく受託者(Trustee)として振る舞う”ことについて触れていますが、この点は世代継承において非常に重要な意味を持ちます。本来、資産管理会社であれば、その目的は資産の保全にありますが、ここで改めてよく考えてみましょう。資産を残された側はその資産の扱いについて十分な知識を持っているのでしょうか。

この点においてPTCであれば次の世代に対するいわば「教育」の機能も担うことができます。家族会社を継ぐ継がないという話以上に、ファミリー資産の管理について徐々に学んでいくことが必要なのです。

家族信託としてのPTCの重要性

相続に重きを置くとき、ついつい蔑ろにしてしまうのが。その資産の取り扱いのことです。もちろん資産は残された者が好きにすればよいのかもしれませんが、存命中にあなたができることは資産を引き継ぐ道筋を作ると同時に、その資産の使い途についてしっかりと次の世代に繋いでいくことなのです。その意味で、家族信託としてのPTCは最適であり、コストを払ってでも導入すべき学習塾でもあるのです。

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