新型コロナウィルス感染拡大に伴って経済活動が停止したことにより、ローン担保証券(CLO)の市場に動揺が見られます。商品設計はリーマンショック時に火の車となった債務担保証券(CDO)と少し異なりますが、それでもリスク資産に変わりはなく、果たして金融危機のトリガーとなりうるのか注目が集まるところです。一方、動揺した市場を投資の好機と見て投資機会を伺う投資家もいるので、その話をしたいと思います。
CLO市場とは
通称、CLOとは、Collateralized Loan Obligationの略称で、日本語ではローン担保証券です。つまり、ローンを担保とする証券化商品ということになります。
では、ここでいう”ローン”とはどういうものかというと、通常”ローン”からイメージする住宅ローンなどではなく、プライベートエクイティファンドが未上場の企業を買収する場合などに用いる、ローンであることがほとんどです。買収される企業というのはそもそも経営状態が良くなく、したがって格付けも低い企業なので、ローンの金利は高いことが多いのです。
CLOでは、例えば、こうした高利回りだがリスクの高いローンを1,000億円かき集めた上で、そのうち100億円にはAAA格付けでかつ、最も優先して返済される構造を作り、代わりに最も低い格付けの100億円はそれなりのデフォルトを負ってもらう代わりにさらに高い利回りを配分する、といった構造を作り出します。リスクを負いたくない投資家は格付けの高いものを買い漁り、リスクテイクしたい投資家は格付けの低いものを買い漁る、というわけです。
日本の機関投資家は目利き力を問われている
ゆうちょ銀行や農林中金などの機関投資家は、利回りの高いCLOの残高を積み増してきており、グローバルに見た邦銀のCLO保有比率は15%に達したとされています。
銀行という事業の性質上、過度なリスクテイクはできず、格付けの高いCLOを保有していることが予想はされますが、そうはいっても”中身次第”というところで、気付かぬうちに資産のクオリティが下がっていないか(デフォルト確率が上昇していないか)は常にモニタリングする必要があります。したがって、新型コロナウィルスによる未曾有の経済危機においては、投資家としての目利き力が問われているわけです。
CLO市場の動揺はどの程度のものか
CLO市場の存在は、実は金融機関による投機的格付けのローンの提供のために欠かせないものとなっています。ただ、米連邦準備銀行による資産買い入れの対象には現時点でなっていません。
米失業率が急激に上昇するなど、景気悪化の度合いは深刻であり、本来安全とされているAAA格付けの商品を守る仕組みがどれだけ機能するかは現時点では分かりません。少なくとも投資適格級(BBB)以上であっても元利払いの停止に繋がることがあり得ることが指摘されています。
CLOの格下げには時間がかかる
一般に、証券化商品に対しては外部格付会社が格付を付与します。もちろん、通常の社債などと同じように、最上級のAAA(トリプルエー)からスタートし、デフォルトリスクの程度によって分類されます。ただ、複雑な商品設計と、その裏付資産たるローンの評価が難しいことから、市場が悪化したとして、格付け見直しを始めてから実際に格下げかあるいは格付け維持かの判断がなされるまでに数ヶ月のタイムラグがあります。
もともと格付け自体が、中長期的なデフォルトリスクの判定であって、来月にもデフォルトするかどうかという話をしていないので、このタイムラグは誤差のようなものですが、「格下げされるのではないか」という予想もまた、商品価格には影響を与えることにはなりますので、価格が下がったから喜んで買ったとしても、その後に格下げが待っているということも十分あり得ます。
「体力のある」「持てる」投資家は投資好機を逃さない
今回のCLO市場の動揺を見て、投資機会を探る投資家もいます。それはファミリーオフィスなどの比較的大きな投資家です。CLOは上場証券に比べると圧倒的に複雑であるため、「ローン」の詳細を理解し、割安か割高かを判別できるプロの手を借りる必要があり、中小の投資家では残念ながら”目利き力”という点で勝負になりません。
CLO市場が荒れたからといってCLO市場全体の回復に賭けるのではなく、その中で安売りされているものを買い漁るという戦略だからです。こうした投資家がいる間は「投げ売り」が起こっていませんので、バックストップとしても重要になってきます。
企業債務は金融危機のトリガーとなるか
そうはいってもCLOは経済悪化により打撃を受ける商品の代表格です。CLO市場の機能不全は時間を追ってやってくる上、それにより銀行によるリスクローンの提供機能が弱体化すればこれもまた瀕死の企業に引導を渡すことにも繋がりかねません。一部ではCLOの組成を断念するような事態も起こっているようです。
一度平静を取り戻しつつある市場であっても火種は消えておらず、新たに燃えさかる日が来るのか、あるいはそのまま鎮火してしまうのか、今後注目していく必要があるかもしれません。