日本国内にもプライベートバンキングサービスはあるにも関わらず、そしてかつてほど資産の秘匿性が高くないにも関わらず、海外のプライベートバンキング口座を開きにくる富裕層は後を経ちません。なぜなのか、その理由を分析してみたいと思います。
国内のプライベートバンキングサービスは充実してきている
まずはそもそも国内のプライベートバンキングではダメなのか、という点です。かつて外資系のプライベートバンクが進出して、事業が上手く軌道に乗らず、撤退していったというのは有名な話です。今でも外資系プライベートバンクはいくつか国内で利用できますが、決して多くはありません。一方で、日系のプライベートバンキングサービスはより大口の顧客ビジネスに注力をするためにサービスの向上に努めてきました。1億円以上の運用をするだけなら、オーダーメイドの資産運用サービスなど、選択肢に困ることはないでしょう。節税や相続対策など、そもそも日本の制度に対応するためのアドバイスであれば、国内のプライベートバンキングサービスの方が優れていると思えることすらあるはずです。
海外のプライベートバンクの門戸は徐々に狭くなりつつある
海外のプライベートバンクの利用を考える場合、まずはどの国に口座開設をするかをよく考える必要があります。代表的なのは歴史のあるスイス、アジアでは香港やシンガポール、そしてアメリカなどです。かつては外資系のプライベートバンカーが日本に出張してきて、富裕層を海外まで導く、といったことが散見されましたが、今ではそういったことはご法度とされています。(もちろん、昔はそういう活動をしてもよかった訳ではなく、監視の目が厳しくなっただけです。)海外のプライベートバンクにしても、基本的にはクロスボーダーの顧客獲得に対しては消極的であり、各地域に拠点を持ち、域内の顧客に対してのみサービスを提供する傾向が強まっています。つまり、プライベートバンクを利用したければその国に住む必要が出てきているのです。
自ら海外に足を運べる富裕層は海外のプライベートバンクを好む
日本のプライベートバンクと海外のプライベートバンクはそもそもサービスとして全く同じというわけではありません。ただ、資産運用をするだけのところもあれば、様々な付加価値を提供してくれるところもあります。元々のプライベートバンクとしての歴史と文化も異なっていることでしょう。
海外のプライベートバンクの場合、顧客が日本人だけではないこともあり、資料もコミュニケーションも英語になることが多いですが、その分海外の富裕層に合わせたサービス基準に新鮮味を感じることはできるでしょう。
実際、海外を行き来する富裕層にとって海外での口座保有はさほどハードルは高くならず、むしろ洗練されたサービスを受けるために、自ら足を運ぶことも多いようです。
海外のプライベートバンクは潰れづらい
もう一つ違った観点として、海外のプライベートバンクは潰れづらい、というのがあります。国内のプライベートバンキングサービスの場合、基本的には既存の金融機関の一部門として存在しています。人材の行き来がないにしても、銀行としては一心同体であり、自ら金融市場で運用を行なったり、地場の企業に融資を行なったりしています。したがって、他の部門の状況によっては経営が危うくなる可能性があるのです。
一方、海外のプライベートバンクの場合、預金保護などの仕組みはもちろん、市中銀行と同じですが、そもそも自らのバランスシートを使って、資産運用や融資をすることは少ない、あるいはしないことにしているケースが多いので、純粋に顧客の資産を守ることに長けているとは言えるでしょう。
ただし、潰れづらいのは「海外だから」というよりは各行によって異なるので確認する必要はあります。こうした経営の観点を選択理由にすることは少ないとは思いますが、銀行としてのカルチャーや営業のスタイルに現れてくる特徴でもあります。
富裕層は距離の近すぎるプライベートバンクを嫌う
プライベートバンカーは顧客との信頼関係も厚く、私生活に渡るまで深い付き合いをすることもあります。社長室までは顔パスというケースもあるでしょう。しかし、そういった親密な付き合いが好きな富裕層ばかりではありません。何度も営業の電話がかかってくることを嫌がる人も多いですし、あるいはそもそもプライベートバンクの顧客であることを周りの人や家族に知られたくないと考える人もいます。
日本国内でサービスを受けることはハードルを下げることはできても、物理的な距離が近すぎてしまい、守りたい「プライベート」が破られるリスクが高まるのです。
海外に行く場合、日本人に会わないという可能性はもちろんゼロではありませんが、おそらく周りの目を気にするほどではありません。物理的な距離が離れているので、過剰な連絡を取ることもなく、自ら望んだタイミングでプライベートバンクを利用することができるのです。「資産隠し」のようなことを期待しなくても、十分「秘密の場所」という秘匿性は確保されていると言えるのでしょう。