激動する原油市場動向の要点

逆オイルショックの引き金とその後の供給過剰問題

一度目のショックはサウジアラビアの逆ギレ

コロナショックの最中に起こった石油価格の大暴落は「逆オイルショック」とも言われます。

それまではOPEC(中東石油輸出国機構)とロシアを合わせてOPEC+によって協調減産体制が築かれており、コロナショックによる石油需要減を受け、OPECからは大幅な協調減産案が出されましたが、これをロシアが拒否しました。

OPEC単独での合意内容の実行にはロシアの参加が条件となっていたため、合意も白紙に戻ることになりましたが、それだけでは済まず、サウジアラビアは減産を諦めて大幅増産へと転換することを表明しました。これが一度目のショックであり、原油価格は採算水準の目安とされる1バレル40ドル程度を明確に下抜け、世界の石油産業へ激震が走りました。

その後、近年世界最大の産油国となった米国を交え、改めて世界的な協調減産が模索され、実際に減産合意に至ることができましたが、この時点で既に世界経済はほぼストップしており、原油の需要とその価格がすぐに戻ることは期待されませんでした。

減産に舵を切ったとはいえ、一部の掘削稼働を止めることは簡単ではないので、結果として、オイルタンカーが大量に海に浮かぶ状況を生み出してしまいました。在庫の積み上がりを解消するだけの需要が戻ってくる日はいつになることでしょう。

二度目のショックはテクニカルな要因

そんななか、2020年4月20日ニューヨーク原油市場(WTI)は歴史的なマイナス水準を記録しました。

米原油先物、初のマイナス圏 貯蔵場所不足で買い手不在 – ロイター

5月を限月とする先物の最終日4月21日を前にして、該当商品の市場が干上がり、売りが宙ぶらりんになってしまった結果です。マイナス水準の意味するところは「お金を払ってでも石油を受け取って欲しい」という在庫の余り具合を意味しています。

翌日にはなんとかプラス圏に戻しましたが、本来分厚いはずの先物市場がここまであっさりと下抜けるのは衝撃的な出来事でした。

二度目のショックは先物市場ゆえのテクニカルな要因ではありましたが、事前に予想をする向きもあり、原油市場の異様な供給過剰状態を露呈する結果となりました。

原油はもともと高リスク資産

消費者の立場からすれば、原油よりもガソリンの方が身近でしょうか。ガソリン価格ですら十数年のうちに非常に大きく上下しますし、ガソリン価格を意識しながら給油をする人も多いことでしょう。

金融市場における原油も非常に大きく動きます。原油には利息や配当はありませんから、純粋に価格の推移のみで成り立つ市場であり、基本的には実需筋のために存在します。季節性があったり、あるいは一時的な需給で動くので、ファンダメンタルズのような概念は存在せず、一般には高リスク資産です。

景気が良ければ原油の消費も増えるので、株価との相関がやや高いというのは一つの特徴かもしれません。一方、原油価格を決めるための供給面は、中東を始めとする産油国によりコントロールが可能ですので、これまではオイルカルテルとも言われるように、堂々と価格のコントロールに近いことが成り立ってきました。

いわば石油王の声一つで価格が決まってしまう世界だったのです。ただ、アメリカという新たな巨大な産油国の登場により、その絶妙なバランスは崩れていくことになります。

原油のグローバル均衡と地域的限界

原油には、中東、北欧、北米など、各地域での価格が存在しますが、モノの行き来が盛んになるにつれ、遠く離れた地域の原油を輸送コストを払えば買うこともできるようになり、地域毎の市場は相互に連動し合うようになりました。それにより、かつては中東の産油国(OPEC)のみでコントロールできた市場は、ロシアや、そしてアメリカの動向にも左右されやすくなったのも事実です。

一方、新型コロナウィルスの流行により、それぞれの地域で原油が余るようになると、状況は一変しました。原油価格は全般的に下がりましたが、北欧や中東で産出された石油は買い手が現れるまでタンカーに積み込まれたまま海に浮かぶことになりましたが、北米の石油はもともと陸路のパイプラインが多く、供給過剰に対する態勢としては限界があったこともあり、ニューヨークで取引されるWTIの価格が暴落したわけです。

原油はポジションの取り方に注意

「原油を買う」は少し特殊な取引です。なぜなら、そもそも論として、原油をいかにして保管するかが難しいからです。コモディティの中でも金地金などの貴金属とは話が少し別です。先物市場はできていますが、現物を持つことは非現実的すぎます。何の事業的連関もなく、先物を売り買いするとしたら投機的以外の何者でもないことは頭に入れておくと良いでしょう。

また、先物には清算をする「限月(げんげつ)」が存在します。つまり、◯月の先物価格はいくら、△月の先物価格はいくら、というものです。期日がくれば有無を言わせず、反対売買を行い清算する必要があります(か、現物を受け取る必要があります)。ちなみに、足元の原油先物価格のカーブは以下のようになっており、期近が低く、期先が高い、コンタンゴ相場を形成しています。新型コロナウィルスの影響が徐々に薄れ世の中の需要が戻ってくれば価格が上がりそうという、直感的な予想には合っていると思う人も多いでしょう。

ただ、コンタンゴの難しいところは、先物という価格予想に「保有コスト」の織り込みが含まれる可能性があることです。つまり、単に期近の価格で売るのではなく、コストをかけて保管し、数ヶ月後に売ったらどうかというただそれだけの話です。コストの上乗せをしているだけというケースでは先々の価格が上がっているのは当たり前であり、そこに投資利益は存在し得ません。儲かるのは原油の保管を請け負う業者だけなのです。

コモディティ市場は誰でもアクセスできるようになっていますが、かといって誰もが“気軽に”アクセスするのにいい市場というわけでもありません。ここで挙げていない注意点も多いので、デリバティブ独特の慣習をよく学び、利用するようにしたいものです。

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