ゼネラル・モーターズ(GM)の凋落
ゼネラル・モーターズ(GM)といえば、かつて世界に誇るアメリカの自動車全盛期を築いたビッグ3の一角を占めた企業です。
もともとGMは自動車の製造・販売と販売金融を主力事業として成長を遂げていました。しかし、自動車事業は2004年時点で既に赤字となっており、金融事業の利益によって、全体黒字を維持している状態に陥りました。ただ、この金融事業も金融危機によって、赤字に転落し、GM全体の業績悪化を後押しする状態になってしまいました。
ただし、GMはこの時点で既に「社会的影響力」が大きく、破産させ、ゼロスタートとする選択肢はほぼ困難であった。いわゆるToo Big to Fail(大き過ぎて潰せない)です。
GMは公的資金注入を求め、連邦破産法11条の適用申請を回避することを狙いました。顧客が同社製の乗用車やトラックに対する保証書の裏付けを疑うと考えたからです。しかし、次のハードルは債権者との交渉でした
ゼネラル・モーターズ(GM)の破綻プロセス
2009年5月26日、債権者との債務削減交渉が決裂したことは、破綻への道を明確に開きました。債権者に対して9割の債務減免を交渉したのですから、もともと困難な交渉であったことは言うまでもありません。
2009年6月1日、連邦破産法11条の適用を申請し、GMは破綻しました。創業から100年を過ぎた同社の破綻は、米国市場4番目の規模、製造業では最大の破綻事例となりました。新生GMは「シボレー」や「キャデラック」など優良ブランドや資産のみを譲渡され、不採算事業は旧GMへ残される。米政府は新生GMの株式のうち6割を取得し、「国有化」されたことになります。
工場の操業停止、退職従業者は医療保険費の負担増、債券保有者は額面100に対して30しか支払いを受けられず、株主は壊滅状態になったといえます。
2009年7月10日、40日間の破産法管理下からGMは脱却し、その後は18ヶ月以内の再上場を目指すことになりました。
実際、破綻した場合の債券の取り扱いは?
債券は安全資産、と考える人が多いですが、支払いが保証されているわけではありません。通常であれば発行体が利払いや償還金を投資家に対して支払いますが、発行体が破綻した場合は利払いがなされない、元本が減免になる、元本が一切償還されない、など様々な影響があります。これをデフォルトと言います。
デフォルトの確率が市場で観測された場合、債券の市場価格にはそれが織り込まれます。したがって、デフォルト確率が上昇するにつれて債券価格は下落するため、実際にはデフォルトをしなくても、売却価格が下がってしまいますし、デフォルト間近になって売却をしようと思っても既に紙切れ状態になっていることはあり得ます。
実際、破綻した場合の株式の取り扱いは?
まず、上場会社の場合、破綻プロセスに入ると上場廃止になります。通常の投資家は公開株式市場で取引をしていますから、上場廃止になった時点で、株式の価値はともかくとして、株式売買は急速に細ると考えていいでしょう。個人投資家のレベルで売却先を確保するのは非常に困難です。投資した企業が破産し、清算プロセスに入った場合、持分の分だけ清算価値を受領するところまでが投資家としての権利です。しかし、企業活動の強制終了ですので、大きな価値を受領することは期待できません。
また、破綻プロセスに入って、再建を目指す場合は、再建プロセス次第と言えるでしょう。企業買収になった場合はオファーがくるかもしれませんし、債務削減をする中で、当然ながら株式の価値が毀損されるかもしれません。債権者と違って、株式投資家は常に残余資産への権利なので、破綻してしまった場合、株主として交渉過程に強い発言権はないでしょう。
破綻しそうな企業に投資する方法はあるか?
あります。
逆に破綻しそうな企業に投資した投資家から株式や債券を買い集め、企業を再生に持っていければ莫大な利益が上がるでしょう。実際、プライベート・エクイティファンドやヘッジファンドはこのような戦略を好みます。
一方で、個人で、となると、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)などが最も手頃で流動性が高いかもしれません。ただし、破綻リスクに賭けるというのは非常に大きな資金がない限りはすべきではない、高リスク投資であることはいうまでもありません。
企業破綻に対する投資家としての教訓は?
大きな企業は安定していて潰れづらく、潰れても政府の支援が得られる、という可能性があると楽観的になりがちですが、「企業が潰れるときは必ず投資家が泣きを見る」ということは忘れてはいけません。そしてそれは株式投資家でも債券投資家でも変わりません。そして、破綻プロセスは非常に時間とコストもかかり、通常の投資のように「手放し」で臨めるわけでもありません。
株価が下がれば買いたくなるかもしれませんが、大企業といえど、倒産はする、そういうスタンスで資産運用を行いたいものです。