投資に使うことのできる資産のことを通常は余剰資産と呼びますが、余剰資産は果たしてフルインベストメントすべきなのでしょうか。今回は、「現金比率」をテーマとしてまとめてみたいと思います。
余剰資産かそうでないかという区分
そもそも、資産には余剰資産とそうでないものがあります。これを明確に区分していない人が意外とたくさんいます。
どう区分すべきかというと、一つの基準は収入がゼロになったとしても最低でも半年から1年間は耐え得るか資金量かどうか、です。可能なら2年程度あるとなおよいでしょう。つまり、月々の支出や予想可能な支出についてカバーできるだけの資金を取り置いてなお余る資金は余剰資産です。
余剰資金は株式に投資すべきという意識が強い
多数派ではないと思いますが、
投資=株式
という図式を持っている人にたまに出会います。
ひと昔前は株”券”が存在し、それを資産の象徴として金庫に保管していた人もいると思いますが、現在の若者にとっては株式とはスマホのボタンをポチっと押して買うものです。また、かつては国債を買うだけで十分な金利がありましたから、国債の”証書”を持っていた人も多いですが、現在はゼロ金利のため個人投資家で国債を買う人は多くありません。
こうした時代の変化はありながらも、投資を始めるときにはまずは株式を買う人、そしてその後も、いい意味でも悪い意味でも「最も投資している実感を得られる資産」として株式中心の投資に終始する人がいます。
ただ、時代の流れとしては株式だけでなく、投資信託や上場投資信託(ETF)など新たな投資手法の登場によって、投資家はリスク許容度に合わせた投資を行うことができるようになりました。
現金比率を意識するとき
余剰資金かどうかという視点とは別に、「現金比率」という考え方が存在します。
これは、投資に充てられる余剰資金の中でどのくらいを現金のまま保有するか、という観点です。ただ投資から資金を引き揚げて現金化された結果というよりは、意識的に何割くらいを現金で持っておくか、という一つの意思決定の結果であることが特徴です。では、現金比率を意識したとき、どのようなアクションをとればよいのでしょうか。
1 冷静に状況を分析する
何も状況が変わっていないのに、突然現金比率を意識する人はいません。恐らく流れてくるニュースを見て、投資環境にやや悲観的になった、あるいはもっと進んで「怖くなった」という状況なのではないでしょうか。
もちろん、資産は常に右肩上がりを続けるわけではなく、上がったり下がったりを繰り返しています。その意味で、下がるリスクは常にあるわけです。ただ、その下がるリスクがより大きくなった、あるいは下がったらもう二度と上がってこないと思うようになったのかもしれませんね。その場合は、投資資産を売却して現金化することは一つの選択肢です。
ただ、現金化という意思決定をする前に、「怖い」という感情と戦い、まずは冷静に状況を分析をし、いつ、なぜ、どのくらい下落するのか、といった推定をすることが望ましいです。もちろんそれは根拠のない推定かもしれませんが、具体化することが重要です。
2 資産をショートする
資産とは買う(バイする)ことから始まる、というのは当然ですが、金融市場は近年は顕著に発達をしており、資産を売る(ショートする)ことも多くの場合できます。これは持っている資産を売るのではなく、持っていない資産を売るところからスタートするのです。
ただし、この選択肢は投資活動を継続する=リスクをとることに変わりはありません。確かに投資資産についてあなたは悲観的になったかもしれませんが、だからと言ってショートポジションを作ることは必ずしもロジカルでないと言えます。そもそも、現金化するということはリスクをとりたくないという行動の現れであることをここでも認識しましょう。
3 代替資産はないのかを検討する
現金化したいという意思決定はリスク回避的でって、リスク否定的ではありません。であれば、もう少しリスクの低い代替資産があり得るのかを検討することは非常に重要だと思います。株式であれば、景気後退局面に強い株式を選ぶですとか、債券であればより短期的な信用リスクしかとらないものに入れ替えるとかですね。現金化してしまえば非稼働資産ですし、一度非稼動になると次になかなか稼動させる気にはなりません。
現金化する目的が現金比率を決める
現金化するという作業は、いわば資金繰りです。なので、「どのくらいの金額」「どのくらいの期間」を現金で置いて置くのかを決めておくことが大切です。その際の参考になるのが次のポイントです。
1 手数料支払いのため
資産運用には手数料が少なからずかかります。全てを投資資産にあててしまうと口座維持手数料やら証券保管費用などの、細かな手数料支払いに対する資金手当がなくなってしまいます。数%程度ですが現金で残しておいた方がいいケースがあります。
2 買いどきの証券をすぐに買うため
相場の上げ下げの中で、時折証券には買いどきが訪れます。資産価格が高値で推移しすぎていて、今は買いではないと判断すれば、投資目線を決めた上で、現金として保有しておけば、投資目線に達したときにすぐに投資をすることができます。購入の規模感で必要な現金量は決まります。
3 スムーズな引き出しのため
場合によっては年金のような使い方をする人もいるでしょう。その場合、全てを投資しまっていると、引き出しをしたいと思ったときは資産の売却からスタートします。この時の環境が売却に適しているかどうかを考慮することは意外と重要だったりします。先々の出金計画を考えながらどの程度現金で保有しておくかを決めたいものです。
現金比率は心理と数字の戦い
ここまで見てきたとおり、現金比率は投資家の心理面と数字面、それぞれから決定されるものです。心理的な要素を完全に排除する必要はありませんが、コントロールする必要はあります。また数字面もきちんと表すことによって、漠然とした資金コントロールをしないことが大切です。