金融業者は一手に引き受けたがる傾向がある
プライベートバンク利用者というのは富裕層ですから、その時点で大口の客になるわけですが、資産運用だけでない幅広い収益も見込める客です。銀行の中には大口の顧客向けの部門を設立するくらい、銀行収益にとっては重要なセクターなのです。
したがって、金融業者にとっては是非とも囲い込んでおきたい存在であり、可能な限り一社で引き受けたい、と考えます。これ自体は金融に限らずどこでも一緒かもしれません。
少なくともわざわざ、取引を分散してはどうですか、と顧客に問いかけるメリットは微塵もありません。金融業者としては自分のところが最高のサービスを提供することに揺るぎはないでしょうから。
現実問題としてプライベートバンクの分散は難しい
プライベートバンク利用者の中には、一行に集中することで高い手数料を課せられたりする可能性があることを認識している人も多く、プライベートバンクの分散も視野に入ってきます。
ただ、プライベートバンクには最低預入額が存在し、かつ数億円以上と高額なため、そもそもいくつかのプライベートバンクを利用すること自体は現実的にはハードルが高いと言えるでしょう。例えば1行に3億円、もう1行に3億円、これだけで既に6億円が必要です。
あえて最低預入額で利用するということは、プライベートバンクにとってあなたは最も小口の顧客であるということも意味しており、場合によっては最高のサービスを受けることができなくなってしまうかもしれません。
「競争的で」「牽制の効いた」サービスを受けることは大事
それでもプライベートバンクを分散すべき理由はあります。
一番は一方の銀行が他方の銀行を利用していることを知っていれば、顧客を奪われまいと、「競争的な」サービスを提供するインセンティブになりますし、逆に他方の銀行での取引に対して「牽制の効いた」状態になり、悪いサービスはすぐにバレるということになります。
銀行には「メインバンク」という概念もありますが、ずぶずぶの関係になったときにお互いにとって最高の状態かどうか判別できなくなる危険性を排除できないとは言えるでしょう。もちろんずぶずぶの方が最高の関係を築けることもあるにはありますが。
プライベートバンク同士で協業はできるか
では、プライベートバンクを分散したとして、双方の担当者が協業をすることにより顧客により良いサービスを提供する道はあるのでしょうか。
答えとしては非常に難しいと言わざるを得ません。
ただ、双方の担当者の存在も大事に考えつつ、顧客側が意識的に動くことによってセカンドオピニオンという形をとることを理解する担当者はいますし、実際そうすることを否定的に捉える担当者なのであれば恐らく関係は長続きしないでしょう。
プライベートバンクにはそれぞれ内部での決まりがあり、そしてシステムや顧客情報の展開の限界がありますから、プライベートバンク側に協業を求める試みはさほど上手くはいかないように思います。
複数のプライベートバンクに分散しつつ一人の担当者についてもらうことは可能
プライベートバンクを分散する目的が、単に同じ銀行に預けておくと破綻したときなどに不安だ、というものなのであれば話はもっと簡単です。
複数のプライベートバンクへの口座開設を案内でき、かつ顧客の担当者(リレーションシップマネージャー)を務める、という方法があるからです。
ただし、この場合はプライベートバンクを直接訪ねていくのではなく、外部アセットマネージャー(External Asset Manager)という職業をしている人物を探す必要があります。彼らはもともとプライベートバンクで働いた経験があることが多く、結果的に独立してその仕事をやっているケースが多いので、提供されるサービスに大きな差はありません。あるいは銀行収益というプレッシャーから解放されて伸び伸びと仕事をしている傾向もあります。
ただし、注意したいのはプライベートバンクの紹介だけをやっている業者もいるので、そうではなく、直接顧客の面倒を見ることができる正規の金融ライセンス保有者であることは確認すべきです。
プライベートバンクを分散させて資金を預けるべきか
プライベートバンクを分散させることのメリット、デメリット、限界についてざっくりと書いてみました。分散させることで改善するものも期待できますが、分散させないことで得られるメリットがないわけではないことも理解いただけたのではないでしょうか。
大事なことは、分散させたい場合は顧客自身がそのことを考えるのが大事だということです。プライベートバンカーの側には対応の限界があります。
そして分散の手段は世の中には存在しますから、ただプライベートバンクの門戸を叩くよりもハードルが高いかもしれませんが、その先にゴールは必ずありますし、途中で妥協をすべきでもありません。よくよく考えて実践されると良いのではないでしょうか。