農夫山泉という中国企業
ボトルウォーター事業を展開する農夫山泉(Nongfu Spring)は1996年創業、浙江省杭州に本社を置く企業です。
中国においては、飲料水市場で2012年から2019年まで8年連続で市場シェアトップ(20%強)を維持しており、茶飲料、機能性飲料、ジュース飲料市場でそれぞれトップ3には必ず入っています。
日本で見ることはないだけに、注目をするのはなかなか難しいかもしれませんが、中国本土では誰もが知る企業とされています。
農夫山泉の香港IPOの背景
農夫山泉は中国本土では優良企業の一つでしたが、優良企業だからといって上場しなければならないわけでもありません。実際、農夫山泉はかつて上場の必要性がないことにも言及したことがあります。2018年12月に中信証券からの上場指導も中止しました。
ではなぜ、今回香港でのIPOに踏み切ったのでしょうか。
農夫山泉からの明確なメッセージはあったわけではないですが、上場が香港で行われたことは、海外進出に向けた一つの動きであることは間違いないでしょう。米中の摩擦がなければひょっとすれば米国での上場だったのかもしれません。
農夫山泉の調達額は1000億円を超える規模で、食品・飲料事業のIPOとしては2020年初来で2番目の大きさとなりました。
また、リテール投資家向けの応募倍率は1100倍超となったことで、仮条件レンジ19.5-21.5香港ドルのうち上限である21.5香港ドルでの公開となりました。価格決定は8月28日、株式公開は9月8日でした。公開価格に対して、初値は39.8香港ドルと約85%の上昇で、その後は34−36香港ドル近辺にて推移しています。
新型コロナウィルス流行によって同社もそれなりの影響を受けたとは思いますが、コーナーストーン投資家の後押し、中国本土での新型コロナウィルスの落ち着きを見ながら、大成功の上場であったとは言えるでしょう。
現在は中国でのIPOブームが起こっているともされており、流れに乗ってより大きな事業拡大ができることを期待しているのかもしれませんね。
農夫山泉のニッチ戦略
そもそも農夫山泉は投資家からどのような企業と見られているのでしょう。
農夫山泉は中国の上場会社としては売上・利益・ビジネスモデルにおける予測可能性が高く、投資家からの評価も高い優良企業と言われています。
しかし、ボトルウォーターというのは革新的というにはほど遠いような気もします。現在の中国での状況はどのようなものなのでしょう。
実際、中国国内でもボトルウォーター市場は競争が激しく、その中で赤いキャップが目印の農夫山泉は今や中国全土のスーパーや小売店で販売されています。 なぜでしょうか。
農夫山泉の発展にとって、国内の炭酸飲料水市場の拡大が大きかったことは追い風でしたが、様々な商品展開をするなかで、優良な採水地をいち早く確保することで粗利率60%近くを達成したこと、そして農村部に至るまで、広い小売ネットワークに深く刺さり込んだこともプラスに働きました。
中国の大富豪の一角へ
農夫山泉のIPOを受け、創業者である鍾睒睒(Zhong ShanShan)氏の純資産額は510億米ドル(約5兆4千万円)まで増加し、アリババの創業者であるジャック・マー氏やテンセントの創業者であるポニー・マー氏と同様の水準に達しました。
Zhong氏は農夫山泉の株式を84%保有しているからですね。株式公開後30分間だけでしたが中国の富豪ナンバーワンになっています。
ちなみにZhong氏の場合、農夫山泉だけではなく、上海上場企業のワクチンメーカーの株式75%も保有しており、こちらも大成功の投資だったことが挙げられます。
農夫山泉の次なる経営戦略
香港IPOで得た1100億円の使い途について、既存工場の増強で2023年に年間生産能力を2割増やすことで国内の需要拡大に応えること、そして後々は海外進出を果たすこと、としています。
日本で言えばサントリーや伊藤園、アメリカであればコカ・コーラが飲料水業界で挙がってきますが、現在の農夫山泉のバリュエーションは高い=バブルと言われつつも、コカ・コーラに相当する企業に成長する将来性があるとしたらどうでしょう。今後も農夫山泉には注目が集まりそうです。