手数料無料の投資に潜むワナ

投資信託への手数料無料化の波が押し寄せる

2019年、日本では大手ネット証券を中心に販売手数料の無料化が実施されました。これは販売会社の”販売”手数料の話ですが、運用会社が受け取る信託報酬から一部が販売会社に支払われることもあります。

例えば賃貸契約において敷金・礼金ゼロだが、家賃にちょっと上乗せ、みたいなことが起こりますが、投資信託でもこれは起こり得ますし、これまではそういう事例もありました。

一方で、運用会社全体としては信託報酬もまたじわじわではありますが低下傾向にあると言われています。かつては運用会社が独自の投資戦略をとるアクティブ運用が人気があったのに対して、近年はファンドマネージャーの意向が働かないパッシブなインデックス運用の方が主流になりつつあるからだと言われています。

販売会社としても運用会社としても手数料がどんどんなくなっていくことで、一見すると顧客にとってのメリットが増えているように感じますが、果たして本当にそうなのか、検討してみたいと思います。

顧客への呼び込み文句としては有効か

もちろん手数料無料化は顧客にとってメリットがありますが、一方でキャッチコピー的に用いられている例もあると思います。全く同じものが他社で手に入るとしたら、少しでも手数料を割り引けば顧客がなびく、という理屈です。

証券会社が多数あっても、取り扱える金融商品に大きな差異はないと言われていますから、価格競争をしなければ顧客を呼び込むことができないからです。一方、目玉商品だけ安くすることで、それ以外の商品はそのままかあるいは高い状態に維持し、全体利益を確保するといった経営戦略の場合もあるようです。

手数料無料は本当に顧客目線なのか

日本人の格言には”タダより高いものはない”があります。まぁそうは言ってもタダがいいよね、という声が聞こえてきそうですが、本当に目先のタダが長期的に高くつくことはないのか、考えてみることは大事です。

1 サービスの劣化をもたらし得る

当然ですが企業は利益追求を行なっています。従業員を雇い、株主に還元するためですね。事業の利益率が低くなれば、企業が行うのはコストカットであり、それは人件費の削減、設備の劣化につながります。

もちろん、テクノロジーによる代替で、自然とコストカットできることもあるかもしれませんが、過剰な利益の圧縮はサービスの劣化に繋がることは想像に難くありません。

気づいたら、トラブル時に対応してくれるスタッフがいなくなっているかもしれません。あるいは設備更新が遅れたりセキュリティに脆弱性が生まれたりして、取引ができない時間帯が頻繁に発生するかもしれません。

2 企業によっては事業継続性に難がある

運用会社にとっては預り残高が最も大事です。

手数料が高かろうが低かろうが、預り残高がなければそもそも事業は成り立ちません。手数料ゼロの流れは運用会社の経営環境を非常に競争的にしており、結果として預り残高の奪い合いを促しています。

その他の業態とのアライアンスによる広告収入などで他の収益源を見出した企業は、本体の預り資産からの収益を諦めることができますが、そうでない場合は単純に売上減少により、経営難に陥ることになります。

合併買収に巻き込まれるかもしれませんし、場合によっては口座閉鎖になってしまうかもしれません。

そもそも顧客はどんなコスト体系でも納得をしづらい

資産運用にかかるコストについては、そもそも顧客の納得は得づらいということが指摘されています。

コストがただ高いというよりは何にどうコストがかかるのかが分かりづらいからです。資産管理業務が忙しいかどうかに関わらず年間一律1%だったり、運用会社は預り資産を増やすインセンティブを保つために成果報酬型を採用したりする例もあります。

ロジカルには成果報酬型の方が顧客利益に沿いそうだと分かったりしますが、結局のところ一体何が一番良いのかということに関して正解はないようにも思います。ただ、報酬が過剰でないこと(適正性)には気をつけるべきであるといったことは言えそうです。

コスト以上に商品選びが重要という面もある

同じ商品を買うのであればコストは安い方がいい、というのは確かですが、コストが安いものを探すことによって、見失っているものはないでしょうか。

資産運用においては本来は商品選びの方が重要です。ネット3%のリターンを得るという意味では、コスト1%、リターン4%の例と、コスト3%、リターン6%の例では結果は同じだからです。コストが全てを物語るわけではないというのは覚えておくと良いかもしれません。

投資信託は資産残高にも注意が必要

投資商品がメジャーになりすぎると、各社が同じ商品を販売して結果として競争が激しくなり、利益率が低下することがトレンドになりつつあります。

そうすると考えるのは「ちょっと変わった商品」を提供することで若干コストを高く設定することです。トレンドを追いかけた結果、人気商品が生まれる可能性もありますが、あまり人気が出ずに精算に向かってしまう可能性もあります。

どんなに秀逸で、自身の投資ビューに沿うものであっても、世の中の投資家に支持されず、資産残高を一定程度保つことができなければ長期的な運営は難しいです。

金融会社の寡占化の先には

一般には、コスト競争の結果として、より体力のある企業が生き残り、産業の寡占化が起こる可能性があります。その後は、寡占企業により価格決定メカニズムが牛耳られて、最終的にはコストが上昇し、消費者のメリットが薄れる時が来るかもしれません。

常に市場が競争的であればいいのですが、金融事業は参入障壁が決して低くはないですし。ただ、この論点は考えすぎかもしれませんね。

外部のアドバイザーの出番はあるか

手数料が安い方がいいと考えるのは投資家にとって重要なことです。

ただし、事業の継続性や商品の相対的な魅力の吟味、資産残高のモニタリングなどは、正直一般の投資家ではなかなか時間をかけてできるところではないように思います。ただコスト低下を追求するだけでなく、少しだけコストをかけて外部のアドバイザーを雇うなどの方法で、全体利益の向上を目指していくことを考えていくことが次のトレンドになってくるかどうかというところでしょうか。

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