IPOを待つことのリスクを把握する

IPO環境は急速に悪化するのか

香港は民主化デモにより、そして世界は新型コロナウィルス流行により、IPO環境が急速に悪化した、と言われます。しかし、株式市場そのものは正常に機能しているので、果たして本当にIPO環境が冷え込んでしまったのか、というのは判断が難しいところです。

実際、2019年のアリババの香港上場は逆風と言われる中でも非常に良い結果を残したとされています。金融緩和環境が続く中、市中には投資マネーが溢れているので、「社会不安、経済不安」がどれだけ影響するのかは分かりません。

ただ、実際に不況下においては投資家のマインドは冷え込み、新規IPOに関しては資金の集まりが悪い状況になる、と考えるのは自然です。また、成績表である決算が決して良いものではなくなることも影響するでしょう。実際、新型コロナウィルス流行により、IPOの延期を行なった上場企業予備軍は多数あると言われています。

IPOを待つ企業が現れる理由

IPOには募集時の価格が存在します。つまり、「これくらいで売り出せば十分投資資金が集まるのでは」という見立てをしてから臨みます。

少し前には、「IPOの抽選に当選すれば、間違いなく勝てる=公開後には募集時価格よりも株価が高い状態になるノーリスクハイリターン投資」、という期待感すらあったと聞いています。もちろん、IPOの魅力を売り込むための証券会社の戦略の一環であったことは言うまでもないですが、それでもIPOが身近に感じられるようになったのは事実です。

こうした値付けの性質からして、募集時の価格設定が上手くいかず、投資家からの資金も集まらない、といった事態は全力で避けたいので、不況の足音が聞こえてくるなかで、IPOを延期したい、あるいはした方がいいのではないか、という議論が起こります。

しかし、いったん延期したIPO構想はどのようなきっかけでもって復活させれば良いのでしょう。

IPOはいつまで待てば良いのか

スタートアップにとって気をつけなければならないのは景気の底を避けることだけではありません。多くのスタートアップは企業から資金調達、そしてIPOというスケジュールを組んでおり、それは意外と公式化されており、スピードもまた企業の評価に関わります。また、同じようなスケジュールで、IPO前の企業が次々と現れてくるのです。

つまり、IPOが遅れれば次のスケジュールの企業たちと同じ土俵に乗っていき、結果的にIPO待ちの行列ができ始めます。仮にIPO環境の最悪期を免れたとして、その後の環境において投資家は有限ですから、より競争的で、IPOに対して厳しい目が向けられることになる可能性はあります。待ちに待った企業が一斉にIPOすることが果たして全プレーヤーにとって良い結果をもたらすかどうかは分かりません。

そもそもIPOは必ずしもゴールではない

上場企業予備軍の中には、IPOを起業からのゴールに設定している企業があるのではないでしょうか。あるいは、企業を支えてきた投資家の中にはIPOを出口戦略の一つに据えた投資家もいるかもしれません。その場合、IPOが延期になることは避けたいという気持ちは十分に分かります。しかし、IPOをしなくても様々なラウンドを通じて企業成長できたように、IPO前でも十分な資金調達市場は存在しますし、そういう市場が近年発達してきました。早くIPOを遂げることにこだわりすぎず、改めて企業を成長させる良いチャンスと捉えることは重要かもしれません。

IPOは最良のタイミングで執行を

一般には、IPOは3月、6月、9月、12月などが多いとされています。それはIPO申請時の審査として直近の決算を見られることで、決算前に行ってしまいたいというニーズがあることが関係しているようです。IPOはスケジューリングが非常に重要なので、IPO申請の取り下げもできればしたくないはずです。

また、IPOのメリットとしては、一般には知名度や信用力の向上、優秀な人材の確保、従業員の士気向上、資金調達力の向上などが挙げられていますので、やはりどこかでIPOしたいと考えるのは自然です。

ただ、IPOをするかしないかは出口戦略の問題であって、IPOで企業活動の内実が本質的に変わってしまうわけではないでしょうし、もしそうだとすれば一企業としては十分な態勢を築けているとは言えません。

ただ、投資家が企業を観る目(=どういう企業を魅力的とみるか)は新型コロナウィルス流行前と後で変わってくる可能性があります。「上場は選択肢の一つ」と割り切って、再び追い風が吹く最良のタイミングでIPOを行うのが良いと思います。設立10年以内でIPOすることが少ないという事実が示すように、IPOに向けた準備はそもそも長期戦です。

「コロナ収束次第すぐにIPOを」ではなく、IPOが戦略として適切かどうかを含め、様々な利害関係者とよく話し合い、是非この難局を乗り切ってもらいたいものです。

東南アジアでIPOが復活の兆し、年内実施目指す企業相次ぐ – ロイター通信