本記事は「激動する原油市場動向の要点」の続きです。
原油価格の暴落
2020年4月20日、原油価格が歴史的マイナス水準をつけたことは、前回の記事で触れた通りです。本来先物買いをした場合、現物の受け渡しを行うか、あるいは先物売りで相殺するという選択をします。
しかし、今回の背景として、現物の受け渡しをしようにも在庫を蓄える場所が十分になく、強いて保管しようと試みても保管コストが極めて高くなると想定され、マイナス価格で叩き売った、という一般的な理解ができます。一方で、ファンドの場合は、そもそも現物の受け渡しという選択肢は持っていません。
市場のリアリティというか、なかなか一般投資家には理解し難いところかもしれませんが、つまるところ後者の「先物売りで相殺する」が上手くいかなかったことが指摘されています。その背景には、米最大の原油ファンドのポジションの取り方が影響していたのです。
米最大の原油ファンド(ETF)の投資手法
米最大の原油ファンド(ETF)とは原油価格連動型上場信託である、United States Oil Fund(通称、USO)のことです。一般の投資家は、原油ファンドに投資をすることは、原油のスポット価格(現物価格)での売り買いをイメージしていることが多いですが、現実には、
最も近い限月(期近限月)の先物の価格
に連動させています。
平時であれば、スポット価格と期近限月の先物価格には大きな差はありません。なぜなら、1ヶ月で原油市場が劇的に変わることを見込んでいないからです。それに原油先物市場にも十分な流動性があります。USOの場合、最も期近な先物を保有し、限月の清算日までには売却し、次の限月の先物を購入する、いわゆるロールオーバーの取引をしていることになります。
しかし、今回はUSOの運用規模が大きくなってきたことも災いして、そのロールオーバーをしようとしたときに反対側で買ってくれる相手がいなくなってしまったのです。
USOの投資手法が市場に与えた影響
22日にUSOが発表した新しい投資手法では、6月限月のポジションを20%、7月限月のポジションを50%、8月限月のポジションを20%、9月限月のポジションを10%にしており、ポジション変更は既に完了しています。新規の受益権40億口の設定を米証券取引委員会(SEC)に申請していますが、申請が認められるまでは新たなポジションを築くことはありません。そして、28日には8口を1口にまとめる対応(Reverse-Split)が行われました。
一方、取引所であるCMEからは、16日と23日に建玉が特定の限月に集中しないよう、要請を受けている状況であり、しばらくは複雑な動きが続きます。
また、こうした急激なファンドの運営手法の変化は、(米国ならではですが)投資家への損失の転嫁につながっており、集団訴訟(クラスアクション)を提起する、ローファームも出てきています。対象は2020年3月19日から2020年4月28日までの間に新たにUSOを購入した投資家です。
他の原油ファンドはどうか
USO以外の原油ファンドはどうなのでしょうか。
同時期には、ブル型(ロング型、買い持ち)もベア型(ショート型、売り持ち)も両方負けるという事態も発生しました。
21日にはクレディスイスの原油ETN(上場投資証券)の「ベロシティーシェアーズ・デーリー・3x・ロング」(UWTIF)」は参考価格がゼロ以下となり、投資資金が返ってこない事態になった他、22日にはウィズダムツリーの原油ETC(コモディティ上場投資信託)の「ウィズダムツリーWTI原油・3x・デーリー・ショート」も上場廃止となることが決まっています。
かたや、市場の脇役であったいくつかのヘッジファンドはその機動力により、同時期に利益を得ていたようです。
原油価格の上昇に賭けることは本当にできるのか
同期間、USOには記録的な資金流入が続いていました。投資家は原油価格の上昇に賭けていたわけです。通常、ファンドからの資金流出がある場合は、ファンド資産の投げ売りも相まって投資家が損をすることはありますが、資金流入局面では非常に稀な現象だったと言えるでしょう。ファンドは予め定めた投資手法に沿って投資をしなければならないのに、同じことを何倍もの量行わざるを得なくなった結果、自分で自分の首を占めることになってしまったわけです。
同時期、原油価格連動型ファンドのいくつかは解散をしていますから、単に先物を売買するのと違って、ファンド投資では価格”連動”を完全には実現できず、価値がなくなれば解散しなければならないなど、ファンド運営上の制約に縛られるということを忘れてはいけません。
USOについては資金流入の程度から考えると運用を継続するのではと思われ、この先に原油価格の上昇があればある程度は利益を取り込めるかもしれませんが、ポジションの取り方が変わっているので、単に期近限月の価格が上昇したとしても、ファンドの勝ち分になるわけではありません。
コンタンゴの状況を踏まえれば、例えば、原油先物価格のカーブ自体がパラレルシフトして上昇することが必要です。原油への投資はファンド投資が中心ではあるのですが、ポートフォリオへの組み込み方、そして影響も再検討をすべきかもしれませんね。