共通報告基準(CRS)を理解する

共通報告基準(CRS)の目的は「脱税及び租税回避の防止」

共通報告基準(Common Reporting Standard, CRS)とは、自動的交換(Automatic Exchange of Information, AEOI)の対象となる非居住者の口座の特定方法や情報の範囲等を共通化する国際基準です。

2014年7月21日にOECD(経済協力開発機構)が「課税における自動的な情報交換に関する基準」を公表したことに端を発します。日本国においては、2015年3月31日にCRS関連法が成立し、2017年1月1日から、日本の金融機関はCRS要件に基づいて対象講座の特定手続きを開始しました。

日本の金融機関における口座情報に関する報告対象国は公表されています。香港、シンガポール、スイス、ケイマン諸島などのタックスヘイブンも参加済です。2017年9月が第1回情報交換であり、日本は2018年9月の第2回情報交換から参加し、約55万件が国税庁に提供されたとされています。

似たような制度で「FATCA」がありますが、こちらは米国による、米国資産、米国居住者に焦点を当てた枠組みであるので、別々に申告する必要があります。

CRSは「非居住者」に関する金融口座情報を「居住国」の税務当局に報告するもの

CRSの概要は、以下の通りです。

①各国の税務当局は、それぞれ自国に所在する金融機関から非居住者(個人、法人等)にかかる金融口座情報を報告させ、各居住地国の税務当局に対して年に一度まとめて互いに交換する

②CRSの報告義務を負うのは金融機関であり、銀行等の預金機関(Depository Institution)、生命保険会社等の特定保険会社(Specified Insurance Company)、証券会社等の保管機関(Custodial Institution)及び信託等の投資事業体(Investment Entity)

③報告対象となる情報は、口座保有者の氏名、生年月日、住所、居住国、納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等

④報告対象の特定時点は、その年の12月31日

課税上の居住地判定、納税者番号が重要

CRSでは、課税上の住所がある国・地域を特定する必要があります。課税上の住所とは、実際の居所とは異なり、所得税や法人税が課されている場所になります。

通常は、居所=課税上の住所ですが、そうでない場合も申告する必要があります。課税上の住所に対しては、納税者番号が通常は存在します。OECDは各地域における納税者番号の形式について、ガイドラインを定めていますので、居住地であるにも関わらず、一般的な納税者番号を持たない、といった例外的なケースの場合は理由を明らかにすることを求められます。

CRSの報告対象にならないのは?

概要で述べたものの裏返しで、以下のような場合はCRSの報告対象ではないと考えられます。

① 居住国における居住者の金融口座情報

② CRSの自動交換に参加していない国・地域の金融口座情報

③ 金融資産以外の資産情報

一つ目は、「住んでいる国で金融資産を保有すれば良い」という意味です。

そもそも居住国の金融機関では源泉徴収などの仕組みも整っているので、金融口座において脱税・租税回避は起こりにくいので、税務当局も目を光らせることがありません。

二つ目は、「CRSを受け入れない国に金融資産を保有すれば良い」という意味です。

もちろん、CRS参加国は未だ全世界ではありませんが、CRS回避の発想が存在し得ることを各国税務当局も知っているので、CRSから未来永劫資産を守ってくれる砦となる国が果たして出てくるか、というのは不透明です。資産の秘匿性を大事にしてきたスイスですらOECDの枠組みに従ったのですから。

三つ目は、「金融資産でなければ良い」という意味です。

例えば、不動産であればCRS報告対象ではありません。ただし、不動産の場合はその国に所在しますから、発生する所得は国内源泉所得に該当するケースが多く、そもそも非課税にはならないでしょう。

金地金(ゴールドバー)や貴金属、高級時計、アンティークなどももちろんCRS報告対象ではありません。実物資産が対象外となる一方で、実物資産を裏付けとする金融資産である、ETFやREITなどは対象になりますので注意が必要です。

CRSは税務調査の土台に過ぎない

CRS自体は単なる情報交換ですので、単独では実はあまり役に立たないかもしれません。各国の税務当局にとっては、もちろんストレートに外国の金融機関口座での取引がきちんと税務申告されたかどうかをチェックすることもそうですが、どのようなスキームで節税などを行なっているかの実態が掴みやすくなるのです。

その意味でCRSは税務当局にとっての宝の山なのです。国外財産調書などのその他の制度で得られた情報を突合しながら、税務調査を行なっていく、そのための土台がCRSなのです。CRSという制度をよく知り、きちんと対策をしながら海外生活を送ること、それが最も大切なことです。

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