今回は富裕層への金融サービスであるウェルスマネジメントの分野で有名なキャップジェミニのレポートを紹介したいと思います。
2020年7月9日、フランスのコンサルティング会社キャップジェミニが年次のワールド・ウェルス・レポートを公表しました。興味のある方は簡単なユーザー登録をするだけでレポートの原文がダウンロードできます。(勧誘リンクではありません。)
世界の富裕層人口は増え続けている
2019年も世界の富裕層人口(数)は年率8.8%で増加し、1,960万人となりました。また、地域別の富裕層人口で言えば、米国の590万人に次いで、日本は339万人と2番目。これにドイツ147万人、中国131万人、フランス70万人が続く形となりました。米国、日本、ドイツ、中国の4カ国だけで世界の富裕層人口のおよそ6割を占めていることは注目に値すべきです。
金融資産の伸び率で言えば、2012年まではアジア太平洋地域が全体を牽引してきましたが、2019年は北米が伸び率トップとなっており、米中貿易戦争のなかでも株式市場が堅調だったことが背景にあると考えられます。
富裕層はどの投資資産を選好しているのか
2020年1-2月に富裕層が最も選好した資産は株式で全体の30%という結果です。残りは債券17%、不動産15%、オルタナティブ投資13%、現金25%と、バランスよく見ていることが窺えます。若干の内訳の変化はあるも、2018年や2019年と比べて極端に変わるものではなかったようです。オルタナティブ資産に投資割合があること、現金をそれなりに確保していることも富裕層の特徴だと考えられるでしょう。ただし、2020年3月以降に富裕層の資産構成が変化した可能性はあります。
富裕層はウェルスマネジメントの手数料が高いと不満
ここまで見てくると、富裕層にとっては順風満帆の経済状況だったかに思えますが、個々人が受けているウェルスマネジメントのサービスに引きつけると少し違った事情も見えてきます。特に、徐々に資産運用の環境が厳しくなるにつれ、ウェルスマネジメントの手数料が高いことが目につくようになっているようです。
キャップジェミニで調査対象を投資可能資産100万米ドル(約1億円)超の2,500人余りとしてアンケートを実施しています。それによると、2019年時点(コロナショック前)で既に3分の1の富裕層は手数料に不満がある、との結果です。市場が不安定になると手数料への不満が出やすいことはよく知られていますが、2019年時点でも、手数料の高さを第1の理由に、主に契約しているウェルスマネジメント会社を翌年に変える計画を示しています。
投資家が主に関心を示すことは、①透明性、②パフォーマンス、③受けるサービスがもたらす価値であり、預かり資産ベースではなく、パフォーマンスやサービスに基づく手数料体系になることを望んでいるようです。
世の中の流れとしては取引ベースではなく、預り資産ベースの手数料体系が進んできましたが、投資家はその先を求めているのかもしれません。ただし、預り資産ベースを離れる場合、長期的な関係構築とは必ずしも整合的でないかもしれず、自分にあった手数料体系なのかどうか、はよく考える必要がありそうです。何れにしても投資家が手数料に関して辛口になったというのは間違いなさそうです。
ウェルスマネジメントのアキレス腱
ウェルスマネジメントは個人に寄り添ったサービスという印象を抱いている人も多いですが、一方で一人ひとりに合わせたサービスを提供できていないという実態もあります。
会社や商品に関する情報は選別をされていないし、どのような付加価値にアクセスできるのかも明確ではないときがあります。富裕層ですら、未だに正しい情報に行き着くために相応の努力が必要な状況です。
例えば大型テック企業のウェルスマネジメント事業への参入により、そういった“不便さ”が解消されることが期待されています。
手数料に見合う価値をどこに見出せば良いか
一つの答えとして、レポートでは、40歳以下の超富裕層の8割は付加価値サービスに興味を示していると指摘されています。
40歳以下で超富裕層入りした人の場合、先々5年の主たる収入として投資リターンを挙げることが多いようです。例えば、顧客のリスクプロファイルが特注になったり、テーラーメイドなポートフォリオや投資アドバイスが得られたり、運用報告の仕方も工夫されていたりといった部分が付加価値になり得ます。
また、サステナブル投資を通じて、投機的でないこと、社会への貢献ができる投資でかつ、長期的に高いリターンを上げ得ることに注目する富裕層は増加傾向にあり、そういった富裕層の姿勢の変化に対応できることもプラスに映るようです。
それ以外にも、金融資産のみならず、不動産投資のアドバイスや税金プランニング、法律コンサルや相続アドバイス、芸術品やヨットなどの趣味に関するアドバイスも付加的な要素として考えられているようです。
これら全てが、期待を上回るポジティブ経験(Wow Impact)をもたらし、会社自体の印象も変え得る、と考えられているようです。
ウェルスマネジメントの将来像
高すぎる手数料が競争環境によって是正されていくこと自体は良いことですが、ウェルスマネジメントもまた一つの収益事業であり続けなければサービスを提供できません。投資家が資産を守り、それに合わせてウェルスマネジメント会社も潤うことが最も重要なことなのですが、将来の市場環境は予断を許しません。2020年がどのような年になるのが、注目しておくのがよいと思います。