今回は、会社経営者、その中でもオーナー社長に絞った資産運用の話をしてみたいと思います。会社設立の動機として税制の有効活用を挙げる人は多いものの、実際にお金が貯まった後は、意外とその使い途に悩んでいるものです。
ここで、念の為“オーナー社長”の定義を確認しておきます。
社長とは最高経営責任者であり、経営を行う人物、オーナーとは株主であり、会社を所有する人物です。つまり、「オーナー社長」というのは自らの会社に(多くの場合一人で)出資をしており、会社経営において絶対的な影響力を行使するとともに、絶大な手腕を発揮する人物のことを言います。経営と所有が一体化しているので、スピード感のある意思決定ができる一方、ワンマン経営と揶揄されることにも繋がります。
事業の稼ぎで生まれた余剰資産の使い途
① メインは事業への再投資
オーナー社長の場合、大部分は一代で会社を大きくした人でしょうし、あるいは家族経営で脈々と受け継がれてきたという人もいるでしょう。
この場合、まずは本業の意識が強いですから、次に考えることも会社の拡大であり、可能であればシナジーのある企業あるいは事業への投資を検討します。特に事業投資であれば、社長としての得意分野になっていることでしょうから、一日の長があり、そして成功に導く人脈も持っているかもしれません。オーナー社長の中には「本業が一番儲かる」と思っている方が多いのも特徴です。多少冒険的に様々な事業を見渡してみても、最終的には「餅屋は餅屋」と思って戻ってくる方も多いですね。
② 不動産投資が出てきやすい
事業への投資がリスクが高いとしたら、本業の経営を安定させるために、別の収益の柱を作りたいと考えるのではないでしょうか。その場合は、不動産投資が多くなってきます。不動産投資もまた経営とよく言われますが、本業ほど混みいったことは必要ないので、大きな負荷もなく取り組まれている人が多いようです。ただし、あくまで本業とは異なるので、熱心になりすぎて本業が疎かになってしまっては元も子もありません。
③ 金融資産運用には法人口座という道もある
不動産の場合は実物資産ですが、金融資産となると尻込みする人も少なからずいます。ただ、法人であれば、法人口座を開設することで金融資産で資産運用ができるようになります。本業が儲かったとして、稼いだお金をそのまま余剰資産として放置しているのははっきり言ってもったいないです。資本の効率性が低下しますし、かと言って事業拡大のチャンスがそうやすやすとやってくるわけではありません。不動産のような流動性の低い(売却しづらい)資産よりも、金融資産は余剰資金の有効活用には向いています。
ただし、ここでやってはいけないのは、資産運用でリスクを取りすぎてしまい、「財テク」に走ってしまうことです。資産運用はあくまで余剰資金の有効活用であって、それに頼って利益を上げる状態にまで持っていくことを最初から期待してはいけません。本業が不調なときほど「財テク」に走りたくなりますが、グッと堪え、むしろ本業が好調なときにほど、不活用な資金を働きに出すことが必要になってきます。
中小企業の資産運用において大事なことは安定運用です。
実際、資産管理法人でない限りは、資産運用で収益を立てていきたいというケースは多くありません。必然的に、資産運用ではリスクを取らない方針を取締役会などで決めているケースもあります。そのため、資産運用をするとなったときに候補になりやすいのは、「債券」です。それはなぜかというと、債券は元本が返ってくる期日があり、リターンが読めると考える人が多く、債券=安全という意識になりがちだからです。必ずしも正しくはありません。
例えば、利回りの高い債券を欲しがったとすると、仕組債を勧める金融機関は数多く存在します。それは投資家にとって魅力的に“見える”商品として作られているからです。ただ、実際の仕組の多くは「ゼロサムゲーム=誰かが得すれば反対側で損をする人が出る」というものですから、場合によっては想像と全く逆の、ギャンブルの性質を持ち得ます。
会社の資産と個人の資産の境目が分かりづらくなりがち
オーナー社長の場合、個人の資産と会社の資産の区別をあまりしていないケースがあります。
ただし、個人と法人では、法的な意味合いは全く異なってきますので、例えば資産運用のために口座開設をするとなっても、契約主体が個人なのか法人なのかで書類が変わってきたりしますね。一般には法人の取引の方が手間と労力がかかります。
ただ、手間をかけてもメリットがあるとすれば税金の取り扱いでしょう。法人の登記国などによって異なってきますから、タックスアドバイザーも交えながら資産運用の計画を練るのが良いでしょう。
法人資産と事業承継への意識
もちろん本業で稼ぐことは目的であったわけですが、実際資産ができてしまうとそこまでお金が必要と思わない人も中にはいます。そのときは、次の世代にどのように渡していくか、ということを考え始めます。
日本の場合は、法人資産を個人資産に変えるのには高い高いハードルがありますから、法人の承継に関して早い段階で対策をうつことが望ましいです。場合によっては退職金をしっかり準備した上で、現役を退きつつ、外部から社長を雇い、自らはオーナーに徹するという道もあるでしょう。あるいは自社株を信託することにより、次の世代に効率的に渡しておくことも一つの手立てです。事業を売却するにしても、その後の資金をどのように管理すれば良いか、という悩みが出てきます。
事業承継は楽なステップではありません。いざ承継となったときに準備ができていなければ大変な思いをします。時間のあるうちに様々な専門家とも相談し、早めに悩みを打ち明ける相手を探しておくことは後々の身を助けることになるでしょう。