コロナショック後、世界での流行をよそに、中国の景気が戻ったかのような印象を受ける人もいるかもしれませんが、果たして本当にそうなのか。一つの検証として、中国不動産デベロッぺーの最近の動きを取り上げてみます。
中国不動産デベロッパーTahoe Groupとは
Tahoe Groupは中国のFuzhouを本拠地として1996年に設立された、不動産デベロッパーです。近年は医療や保険、金融サービスもグループ内で展開する国際コングロマリットとなった中国企業です。深セン株式市場にも2010年から上場(株式コード:000732)しています。CEOのHuang Qisenは2018年のフォーブス中国富裕層ランキングの第347位でしたが、その後陥落しています。
Tahoeは2016年から買収に次ぐ買収を始め、2016年に香港のDa Sing Insuranceを、2017年にはナスダック上場のAlliance Healthcare Serviceを買収しました。以来、高い負債比率で経営を継続してきたところです。
Tahoe Groupの債務状況
もともと負債比率が高かったため、外部格付け機関からは見通しの悪化を2019年にも指摘されていましたが、2020年3月にはUSD4.3blnの短期債の支払いが滞って中国内でブラックリスト入りしました。
2020年7月6日にはRMB1.5blnの国内債務支払いが滞ったことは非常に大きなニュースとなりました。債務不履行の理由としては、新型コロナウィルス流行による、建設と販売の遅れを挙げています。RMB1.5blnは現時点で中国不動産デベロッパーによる最大のデフォルト額となっています。
Tahoe Groupへの格下げが続く
巨大なデフォルトの発生を受けて、外部格付け機関は格下げを行なっています。
2020年7月8日にはFitchが外貨建て債務格付けをCCからRD(Restricted Default)へと格下げしていますが、RDとは、一部債務不履行を起こしたが、会社としては経営破綻プロセス入りはしていないと言う状況です。一部債務不履行により、連鎖的に他の債務もデフォルト扱いとなる、クロスデフォルトも伴っています。
Fitch Downgrades Tahoe to Restricted Default After Missing Payment
2020年7月10日にはMoody’sがグループ格付けをCaa1からCaa3へと2段階格下げし、見通しもネガティブとしています。格下げの理由として今後12-18ヶ月間に満期が訪れる債務は非常に多く、当面はリファイナンス(借換)も困難になる可能性が高いことを指摘しています。
Tahoe Groupの好転はあるか
格付け機関のコメントを見ても分かる通り、短期的に見通しが明るくなることは非常に難しいでしょう。また、グループ内での保険事業(元Da Sing Insurance)についても買い手を探すプロセスに入ったことが報道されており、China LifeやSun Lifeが興味を示している可能性があるとのことです。
China’s Tahoe Weighs $1 Billion Insurance Unit Sale – Bloomberg
北京や上海で進行中の建設プロジェクトについても状況が危ぶまれており、建設前に購入した顧客からは不安の声が寄せられており、建設完了の遅れがさらに同社の状況を悪化させる可能性すらあります。
中国国内での債務不履行はそもそも増加傾向にある
中国の景気減速が指摘されるなか、中国企業による国内での社債のデフォルト額は人民元建てで2017年には31.2blnだったものが、2018年に120.9bln、2019年に147.6blnを増加基調にありました(データ:Wind Information, May 2020)。中国メディア「券商中国」の直近の報道では、2020年上半期では71銘柄、計87.5blnの社債がデフォルトしたとされています。
Coronavirus raises threat of China developer defaults – Financial Times
コロナショックを受けて、企業の流動性の状況は著しく悪化したと言えるでしょうが、数字だけを見れば悲劇的とまでは言えません。政府の支援もあり、生き延び続けるゾンビ企業もあるとされています。
ただし、もともと債務比率の高かった中国不動産デベロッパー業界に追い討ちをかけたことは言うまでもありません。今回取り上げたTahoe Groupはその中でもトップクラスの債務比率でしたから、その後続く企業があるかどうかは分かりませんが、新型コロナウィルスによる経済ショックの爪痕が徐々に出て来るのはこの夏以降の話なのかもしれませんね。