ディストレストファンドが待つ、本当の最悪期は訪れるか

ディストレスト投資とは?

ディストレス(distressed)というのは、「行き詰まった」とか「困窮した」といった意味です。したがって、経営破綻あるいは経営危機状態にあり、行き詰まった企業に対して行う投資をディストレス投資と呼びます。

投資対象は株式かもしれませんし、不良債権かもしれません。いずれにしても、そのままでは経営が立ち行かないので、投資対象としては本来であれば非常にリスクの高い企業のことです。

実際、ディストレスト化した証券というのは価値の計測が非常に難しいので、知識と経験の豊富な同分野のプロでしか対処をすることができません。ただ、言わば「投げ売り」状態にあるものを買い取ることができれば、非常に高いリターンをあげることもできます。

過去最大のファンドレイズを目指すオークツリー

2020年4月16日、世界最大の「ディストレスト投資」会社が150億ドル(約1.6兆円)のファンドレイズを発表しました。オルタナティブ投資を行うプライベートエクイティファンドのうち、特に不良債権投資の分野で豊富な経験を持つのがマークス・ハワード率いるオークツリー(Oaktree)です。

オークツリー、1.6兆円のディストレストファンド目指す – Bloomberg

オークツリーの場合、「安く買って、高く売る」というオーソドックスな投資スタイルです。細かいですが、上場企業に対して言える、「安いときに買って、高いときに売る」とは少し違います。つまり、景気サイクルの後期に至り、安く買うチャンスが増えてきたので、ファンドレイズを開始し、いつでも投資をできる状態にしておきたいという狙いがあります。

アメリカでは2008年以来初めて、ディストレスト債だけで既に1兆ドルに達していると言われています。

コロナショックでは思っていたほどディストレスト企業は現れていない可能性

もともとコロナショック前は、上場株式市場同様、プライベートエクイティの世界でも「割高」で「過熱」な状態が続いていたため、「高く買ってさらに高く売る」はリスクが高く、投資妙味が薄いので、プライベートエクイティ分野の限界も感じさせつつありました。しかし、そのなかでのコロナショックは砂漠に降る雨のごとく、プライベートエクイティファンドの目を覚ましたことでしょう。

ただ、FRBが未曾有の金融緩和を行なったことで、市場全般に現れつつあった投資チャンスは一気に減り、徐々にディストレス化した企業を探していくしかなくなりました。なお、プライベートエクイティファンドの投資対象は、「再建するだけで勝てる企業」ですから、既に再建の余地のない企業に興味はありません。

ゾンビ化した企業を待つのはハイエナ

ディストレストファンドの投資手法は、再建途上企業や持分証券を取得し、経営権を握って価値創造を行う、というものです。まさに瀕死でゾンビ化した企業の臭いを嗅ぎつけて現れるハイエナのようなイメージです。可能な限り安く買い叩き、そして可能な限り高値で売り抜けます。

経営権を取得するので、ハゲタカのような印象を受けるかもしれませんが、ディストレストファンドの経営改善能力はプロそのものであり、それにより不死鳥のごとく甦る企業が後を絶ちません。市場が見放した企業を本当の意味で最後に救い出すのはディストレストファンドというわけです。その意味では救世主なのかもしれませんね。

プライベートエクイティ投資がほぼほぼ勝ち馬である理由

ディストレストファンドのような戦略を取る投資手法をプライベートエクイティ投資と呼びますが、一般には機関投資家向けにしか提供をされません。先述のとおり、投資規模が非常に大きいので、それに合わせた非常に大きな資金調達をする必要があり、小口な投資家を集める手間をかけられないことと、投資そのものが魅力的であることによって大口の投資家で十分資金が集まってしまうことが挙げられます。

ディストレスト投資では、ベンチャーキャピタルのように、数打てば当たる、のようなことはしません。投資が決まった時点で安く買い叩けているので、きちんと再生できればそれだけで価値創造ができますし、そこからさらなる価値増大を目指します。

行なった概ね全ての投資が成功することになり、それゆえに投資リターンも安定し、かつ大きなものになります。その意味で、ディストレストファンドへの投資枠を得られること自体で既に勝ちが決まっており、何も言わずに投資資金だけ出せる機関投資家、そして少数のファミリーオフィスだけが投資チケットを受け取ることができるのです。

真の投資家は底値を待たない

マークス・ハワードが2020年3月24日に公開したメモに書かれていたのはこうです。

「ボトム(底入れ)は反転が始まる前の日だ。したがって、底に達したことを察知するのは不可能である。」

つまり、長く「待ち」の姿勢を貫いた投資家が動き始めるのには十分で、そしてさらに安く買うためだけに待っていてもその日が来るかどうかは分からないということです。何れにしても、いつかは世界が平常に戻る日が来るので、それまでに投資をできていることが何よりも重要だという示唆がありますね。

もちろん、景気の最悪期が来ることはディストレストファンドにとっては絶好の投資機会であり、待ち焦がれるものであることは間違いないと思います。

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