米中対立に巻き込まれたTikTokの将来

今回は、世間を騒がせている、TikTokの経営について、足元の状況をまとめてみたいと思います。

TikTok(ティックトック)とは

知らない人がひょっとしたらいるかもしれませんが、TikTok(ティックトック)というのは中国企業のByteDance(バイトダンス)社が運営するショート動画アプリのことです。バイトダンスの創業者は張一鳴(Zhang Yiming)氏であり、2012年の創業以来、急速なスピードでグローバル企業へと発展させ、TikTokもまた今ではグローバルアプリとして知られています。

TikTokの米国事業売却

トランプ米大統領は2020年8月3日、TikTokについて、9月15日までに米企業に買収されなければ、米国での事業を禁止する、との大統領令を発することを明らかにしました。

今後、TikTokの米国事業は対米外国投資委員会(CFIUS)に強制売却されるか、米政府に事業を禁止される可能性があります。こうした現状に向き合いつつ、TikTokはアメリカのユーザーにサービスを提供し続ける方法を模索しています。

トランプ氏、9月15日までのTikTok米事業売却合意を要求 – Bloomberg

マイクロソフトがTikTokの米事業買収に乗り出す

TikTokの米事業継続に暗雲が立ち込める中、最有力として名乗り出たのがマイクロソフトです。マイクロソフトはTikTokの事業とそのユーザーのデータの管理を引き継ぐことになります。

7月29日、GAFAと呼ばれる米テック大手4社が議会の公聴会に召喚され、反トラスト法関連の質問を受けましたが、マイクロソフトはここには呼び出されず、その後TikTok買収に関してホワイトハウスと協議したことが分かっています。

8月2日には公式ブログにて、TikTokの米国やオーストラリア、カナダ、ニュージーランドの事業の買収手続きを9月15日までに完了させると宣言しています。

マイクロソフトは既に巨大企業ですが、TikTokの買収は500億ドルとも言われており、決して小さくはありません。LinkedInやGitHubなどを買収してきたことに続き、TikTokの買収による広告事業の拡大に期待をしているようです。

マイクロソフトの賭け、TikTok買収は「もろ刃の剣」 – ロイター通信

マイクロソフトが支払う代償

トランプ米大統領の発言で注目を浴びたのは「買収額のかなりの部分が米財務省に入ってこなければならない」という点でした。そもそも、民間企業の買収劇に対して、米政府が金銭を受け取ることができるのか、という論点もあるわけですが、米政府が買収を支持することに対しての見返りとなるのでしょうか。

また、中国企業の買収に乗り出したマイクロソフトは、逆に自らの中国事業を見直す必要にも迫られています。場合によっては、中国政府への情報流出懸念を払拭するため、中国事業の縮小なども視野に入ってくる可能性があります。

現在、大手テック企業に対する監視の目が厳しくなっているなかで、米中という政治的なリスクをはらんだソーシャルメディア事業の渦中に飛び込むことが果たしてよいことなのか、あるいは勝算あっての判断なのかはまだ分かりません。

米中対立という大きな構図

TikTokの話は実は米中対立の氷山の一角にすぎません。実際、米国はより広範な中国製ソフトについて、国家安全保障上のリスクをもたらすと判断した場合、規制を課すことを表明しています。

この姿勢はインドも同じであり、6月29日にはTikTokを含めた59の中国製ソフトの使用が禁止となっています。日本も追随する可能性があります。

また、TikTokの場合、中国政府の影響力が増している香港からも撤退を表明しています。米国から追い出されるから中国寄りなのかと思いきや、もともとTikTok自体は中国とも距離を置くことを意識していた企業です。TikTokの所有権を中国人から切り離し、データセンターを海外において中国政府の検閲から無縁にしようとしていました。

バイトダンス社は今後はロンドンに国際本社を置く計画をメインシナリオとしていますが、これまたイギリス議会の一部議員からは、中国の影響を懸念し、政府に対して検証を求めているようです。

果たして売却先はマイクロソフトなのか、いやそもそも売却が可能なのか、今後もしばらくはTikTok関連のニュースが続きそうです。

中国バイトダンス、本拠を北京からロンドンに移転へ – ロイター通信