本記事を読んでいただいている富裕層の方であっても、ファミリーオフィスを設立することを考えたことがない方は多いと思います。馴染みのない人のために、まずはファミリーオフィスという形態についての一般的な定義から入ってみたいと思います。
ファミリーオフィスとは?
ファミリーオフィスというのは、富裕層個人とその家族が保有する資産の管理及びその運用のみならず、家族経営における法律・税務・会計面でのアドバイス、あるいは複数世代にわたる相続・承継のお手伝いなど、「ファミリー」の永続的な繁栄を最大の目的として運営される組織のことです。
日本ではまだまだ新しい言葉のように思われていますが、欧米では既にファミリーオフィスに分類される組織は数多く存在し、そして歴史もあります。
プライベートバンクとファミリーオフィスは極めて近い使われ方をする用語ですが、前者は金融サービスを主軸に語られ、後者はファミリー=家族を主軸に語られるという理解をすれば、外れてはいないかと思います。ファミリーオフィスはプライベートバンクを利用することも多いですが、プライベートバンクが必須というわけではありません。
近年はアジアにおいて富の蓄積が顕著に見られ、それに呼応するようにシンガポールや香港を中心にファミリーオフィスが設立されています。
日本における”同族経営”への逆風
なぜファミリーオフィスに対する認識が薄いのか、その理由の一つは戦後の日本の在り方にあると考えられています。敗戦に伴って預金封鎖と農地解放、そして財閥解体が行われ、あるいは財産税により脈々と資産を守ってきた「一族」という在り方そのものが否定をされました。ここで一度ぷっつり切れてしまったことが一番大きかったでしょう。
それでも戦後の日本の成長を支えた世代の中で、ファミリービジネスは着実に育ってきました。およそ三世代目に差し掛かる今の時代においてようやく防衛・承継すべき資産が出来上がってきたと言えるでしょう。しかし、法体系の多くは必ずしもその時代の変化に追い着いていません。重箱の隅をつつくような方法でしか、資産を守っていくことができないのです。
経営の話に絞るならば、残念ながら「家業」を継ぎたい次世代は決して多くありません。時代の変化とともに次世代の描く未来もまた変わってきており、同族経営という在り方は時に足枷になります。ただ、事業内容が変わってもいい、資産をしっかりと守っていきたい、だから同族経営を続けたいというニーズは未だに根強いものがあります。
資産規模と目的に応じたファミリーオフィスの”カタチ”を模索すべき
同族経営の会社=ファミリーオフィスではありません。ファミリーオフィスというのは、守りたい「ファミリーとその資産」のもとに集う、資産管理マネージャーや弁護士、会計士、税理士などのプロフェッショナルたちと考えられます。
つまり、「ファミリーとその資産」の構成が複雑でかつ高度なものになるにつれて、そのプロフェッショナルたちもまた選抜される必要があることを意味しています。ただ単に、同族会社の顧問税理士に頼るだけでは足りなくなってくるのです。
一般には、会計及び税務サービスを中心としたファミリーオフィス、資産管理を中心としたファミリーオフィス、慈善事業を中心としたファミリーオフィス、あらゆるサービスを提供するファミリーオフィス、複数のファミリーを束ねるマルチファミリーオフィスなどに分類されるようです。
ただし、分類は分類なので、要はファミリー毎に資産規模やその目的に照らして、必要なファミリーオフィスの”カタチ”を決める必要があります。逆に言えば、資産が10億円程度であったとして、フル装備のファミリーオフィスは必要ないし、その費用も払えないかもしれないが、ファミリーオフィス機能のうち何が必要かを考えて取り入れることは有効だということです。
初めは設立というよりファミリーオフィスサービスを利用
ファミリーオフィスが何か大それたもののように見えたかもしれませんが、それは資産とともに築き上げていく城のようなものです。恐らくいつの間にかファミリーオフィスになっていたということの方が多いかもしれません。
ファミリーオフィスの始まりとして一般的なのはファミリーオフィスサービスの利用ではないかと思います。いきなり専属のプロフェッショナルを雇ってもそんなに仕事はないし、費用がかかるばかりになってしまうので、複数のファミリーとプロフェッショナルチームをシェアするところからスタートします。
プライベートバンクには、ファミリーオフィス専属の担当がいることが多いですが、できれば独立系の方が好ましいです。なぜなら、ファミリーオフィスの目的はファミリーの繁栄であって、それは金融サービスによってのみ補強されるものではないからです。
ファミリーオフィス設立の基準は資産50億円以上か?
基準はあくまで目安であって、要はファミリーオフィス機能のうち何が必要かによる、というのは先述したとおりです。ただし、独自の人材を意識的に雇って、晴れてファミリーオフィスの体をなし始めるのは資産50億円くらいからと言われています。
それでも、専属というよりはマルチファミリーオフィスのように、複数のファミリーオフィスを掛け持つ、あるいは複数ファミリーを束ねたファミリーオフィスに所属する方が効率的であると考えられます。資産運用分野にしても、共同投資案件などが舞い込みやすく、より資産を増やしていくにも適していると思われます。
最終形態は資産100億円以上でシングルファミリーオフィス設立
資産100億円以上になれば単独でファンドの組成、登録にも十分な資産規模になってきます。
プライベートエクイティやクレジット商品など、他の投資家ではアクセスできない資産クラスに参入し、持続可能なリターンを生み出すことが可能です。相続問題も起こりやすくなるため、予め一族の内部での争いを調停し、複雑な人間関係を調整する必要が出てきます。
また、ファミリーオフィスとしての目的にも、慈善事業や社会貢献など、また投資においてはサステナブル投資やインパクト投資など、家族が大切にする視点が組み込まれる傾向があります。ファミリーオフィスの形態としても財団などを選好し、公益に資するものとして非課税となるケースもあるようです。