タックスヘイブン対策税制の適用除外を受けるために必要なこと

国際化した時代のなかで、国をまたいだ企業の経済活動も活発化し、合法的なスキームによる節税行為も一般的となりました。これらのうち租税回避行為と解釈できるものについては防止することを目的に対策税制が導入されました。今回はその中でも日本国にとって大きな一歩となった、タックスヘイブン対策税制を見てみましょう。

タックスヘイブン対策税制とは

タックスヘイブン対策税制というのは、外国子会社合算税制とも呼ばれ、措置法66条の6に定められる、無税または軽課税の国又は地域に所在する特定の外国法人の留保所得のうち、一定の割合を乗じて算出した金額を内国法人又は居住者の所得に合算して課税する、というものです。

ちょっとややこしいですね。

実は何も新しい法律ではなくて、もともとは1978年に導入された法律でしたが、そもそもの対象となる「タックスヘイブン」なるものに確定的な定義が存在しなかったため、あまり脚光を浴びる機会もなかったのです。また、租税回避の認定に関しても、本来課税管轄権を持たない外国法人に対して、租税回避の”推認”でよいという理屈は存在しても、現実には経済合理的な(租税回避でない)事業活動そのものまで阻害してしまう危惧すらあったと言われています。

タックスヘイブン対策税制のフォーカスは

タックスヘイブン対策税制は法人に対するアプローチを採用しています。

過去の判例では、「主たる事業」の判定と、「租税回避」の認定が争点になっています。つまり、総論として明確な基準のもと一律適用される種類の法律ではないし、そうすることを意図もしておらず、個別具体的に勘案することを受け入れているのです。

ただ、そうはいっても基準がないのに法適用を進めるわけにもいかず、事業内容毎に適用除外となる要件を次のとおり規定しています。

タックスヘイブン対策税制の適用除外要件

具体的な要件としては、①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④非関連者基準、⑤所在地国基準です。事業内容によって分けられている理由は、業種毎に租税回避のスキームが類型化できると考えられているからです。

①事業基準

主たる事業が株式・債券の保有、工業所有権その他の技術に関する権利・著作権等の提供、船舶・航空機の貸付【以外】の事業である場合(ネガティブスクリーニング)

②実体基準

主たる事業を行うための事務所、店舗、工場等の【施設】を有する

③管理支配基準

本店所在地国においてその主たる事業の管理、支配及び運営を【自ら】行なっている

これら①〜③はマストであり、加えて、業種別に、④または⑤を充足する必要があります。

④非関連者基準

その対象とする事業を【卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業又は航空運送業のいずれか】のものとし、主として関連者以外の者と行なっている

⑤所在地国基準

不動産業の場合は、主として本店所在地国にある不動産の売買、貸付等を行なっていること

物品賃貸業の場合は、主として本店所在地国において使用される物品の貸付を行なっていること

その他の事業については、主として本店所在地国で行なっていること

適用除外となるために必要な対策とは

①にあるとおり、資産管理を主たる事業と想定するオフショア法人(ペーパーカンパニー)の設立は漏れなくタックスヘイブン対策税制の適用を受けるということです。ノミニーで関係性が絶たれるわけでもありません。

②や③については、事業法人としての本来の活動を行なっていれば容易に充足され得るものであり、④や⑤は、国際的な事業を行うことを阻害しているわけではなく、あくまで、本店所在地での活動が形骸化していないか、あるいは地域密着でないとしても関連者以外との取引が大部分を占めていることが大事だとしています。

要は、

「ちゃんと実体のある経済活動を本店所在地国でしていればクリアできる」

ものなのです。

勘違いしてはいけないのは、タックスヘイブン対策税制は、他国あるいは他の地域が自国に比べ低課税を提供することに介入しているわけではなく、本来自国で行われているはずの経済活動を、形式的に(見た目上)タックスヘイブンに付け替えることによって租税回避を図る行為へ対策を講じているにすぎないのです。

ただ、日本人であれば日本と無関係に仕事をすることは少ないし、気づけば日本寄りの仕事になっている、そんなときにふと思い出して、「ただ税金が安い状態を維持するためだけにその国に法人を置いている状態」になっていないかを確認しなければならないのです。

タックスヘイブン対策税制は個人には適用されないのか

答えは「適用される」です。個人の場合、以下の2つの要件があります。

  • ①日本居住者であること
  • ②特定外国子会社などの発行済み株式の10%以上を保有すること

です。

そして、該当する所得は特定外国子会社の所得に対する持分割合で計算され、【雑所得】に分類されます。つまり、損益通算はできません。

個人の場合、海外に資産管理会社を設立することは考えがちですが、もしそうであった場合、海外法人を設立することによって、【損益通算できたはずの所得も損益通算できなくなる】というネガティブなステータスになることが予想されます。また、出国して海外に住んでいたとしても、税務調査の結果「居住者認定」を受けることはあるので、海外にいればよいということにもなり得ないことには注意が必要です。

海外資産の管理においては、海外法人や海外信託など様々な方法がありますが、安易に取り組まず、専門家の助言を得ながら進める必要があります。

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