スガノミクスに見る日本経済の方向性

安倍晋三氏の総裁辞任後、引き継ぐのは、安倍内閣で官房長官を務めた菅義偉氏に決定しました。金融政策や財政政策に焦点を置いた“アベノミクス”に対し、規制改革や構造改革に重点を置くことが予想されている“スガノミクス”は日本経済にとってどのような影響があるのか、考えてみましょう。

自民党総裁選の風向きは一気に菅氏へ

もともと自民党総裁選には、石破氏、岸田氏、菅氏の3名の立候補がありましたが、多数の派閥の支持が背景となり、結果的には大差をつけて菅氏に決まりました。菅氏自体は無派閥であり、官房長官としては有能であったが、首相としてはどうか、という声もありましたが、安倍政権を引き継ぐ形での着実な政権運営に期待が寄せられています。

無派閥ではありますが、世襲でなく、秘書や地方議員出身者を中心に菅氏を支持する人たちはおり、独自のグループを形成していることは知られています。ただし、政権運営は各派閥のバランスを取りながら、党内をまとめていくことが予想されています。

菅氏は2020年9月16日には衆参両院の指名選挙で第99代内閣総理大臣に選出されます。

菅内閣の顔ぶれは

内閣の要である官房長官には元厚労大臣の加藤勝信氏がつき、国民人気の高い元防衛大臣の河野太郎氏は行政改革担当大臣につきます。

防衛大臣には元防衛副大臣で安倍晋三氏の実弟の岸信夫氏、デジタル担当大臣には元IT担当大臣の平井卓也氏がつきます。

全体としては再任や横すべりが多い人事となっており、新しい顔ぶれは目立ちません。

ただし、総選挙を経ない形での組閣なので、早期解散総選挙があると予想されています。

規制改革と構造改革の本丸は

菅氏は「役所の縦割り、既得権益、前例主義、こうしたものを打倒」という言い方をしており、携帯電話料金のさらなる引き下げや地方銀行の再編に取り組むことを宣言しております。ただし、消費増税については将来的な増税の可能性を残すも、今後10年は不要との考えです。

構造改革が本丸だという意味では、「聖域なき構造改革」を掲げた小泉純一郎元首相を想起させます。「デジタル庁」の創設は一つの旗振りではあります。

金融政策や景気対策は

日本の場合、政権が変わると金融政策が変わるのでは、という声もちらほら聞こえますが、菅政権の場合はそうではないでしょう。未曾有の金融緩和によって日本経済が支えられていることは言うまでもなく、出口はすぐに見えないなかでも、日本銀行ができることはそもそも限られています。

景気対策の面では、当面は新型コロナウィルス対策と経済活動を上手く両立させることに主眼が置かれますが、これも決して出口がすぐに見えるものでもありません。

第二次安倍政権が、円高・株安からの発車となったことに比べれば、菅政権が金融市場での目に見える後押しを受けることはなかなか想像しづらいかもしれません。スガノミクス相場、とでも言うべきものが現れるのかは今の時点では何とも言えません。

例えば株式市場だけを見れば、日本銀行がETFを通じて保有する比率は極めて高い状態が続いており、政権交代を機に株式市場の見直しが進むとしても恐らく影響は上下ともに限定的となる可能性が高いです。

一方、金融政策の方は打つ砲弾がないことはたびたび指摘されており、財政政策かあるいは構造改革にバトンを渡している状況なので、こちらも金融市場が安定していれば動く必要もありません。

米中を中心とする外交政策は

コロナ下なので経済政策に注目が集まりがちですが、昨今は外交政策の重要性が増しており、特に安倍元首相とトランプ大統領の蜜月関係は印象に残っていますし、中国からも国賓としての来日に向けて動いてきた経緯があります。

菅氏は外交経験がありませんが、安倍政権のナンバー2として海外からも認識されてきたこともあり、外交政策面でも安倍政権を引き継ぐ、ということは容易だろうと考えられます。菅氏自身も外交の連続性を重視しており、「外交は安倍首相と相談して処理する」と述べたことは諸外国にも安心を与えたことでしょう。一方、菅氏として外交面で何か成果を残したいと思うかどうか、これから現れてくる可能性はあります。

大きな旗振りは見えないなか、具体的な成功で国民に支持されるかがカギ

構造改革、というのはなかなか目には見えない地道な成果になりがちですが、金融政策や財政政策と異なり、日本経済の潜在成長率を向上させていくには重要な分野であり、そして今最も必要とされることでもあります。

大がかりな旗振りとそれに対するパフォーマンスは期待しづらいなかで、通信業界の改革など、具体的な施策をコツコツと積み上げていくことで、最終的にはコロナの難局を乗り切り、国民の支持を得て成立する政権となることができるかどうか、「菅カラー」に注目が集まります。