IPO(株式公開)での投資は有利か

今回のテーマはInitial Public Offering(株式公開、IPO)です。企業はなぜIPOをするのか、そしてIPOされた株式に投資をするのは有利なのか、考えてみたいと思います。

IPOにおける経営者の目線と投資家の目線

IPOへの最も大きな利害関係人は、経営者と投資家です。それぞれにとってIPOとはどのような意味を持つのでしょうか。

経営者にとってIPOは企業としての信用力の向上と、それに伴う巨大な資金調達市場へのアクセスが大きな魅力になります。一般社員であっても、「勤め先が上場会社なのかどうか」で銀行のローンが借りやすかったりなどして、上場の恩恵があることは知られていますが、経営者にとっては大きく事業拡大をする上で上場は欠かせない、とも考えられます。

かたや投資家にとっては、保有株式が未上場なのか上場なのか、で資産の流動性が異なってきます。未上場であれば売りたいと思ったときに売ることはできません。未上場の間に行なったバリューアップをIPOを通じて売り抜く、そういった出口戦略の一つとして考えることが多いでしょう。

かつてのIPOのイメージは経営者が目指すものでしたが、徐々に投資家が目指すものに変わってきている気はします。そもそもプライベートエクイティやベンチャーキャピタルと呼ばれる、未上場企業への投資が活発に行われるようになったおかげで、起業家は投資家から資金を調達しやすくなり、その分投資家の影響が増したことで、IPOがより投資家のものになってきているように感じます。

経営者にとっては、企業を自分の手でしっかりと育てたいのであれば、やはり経営者自身の資金で企業を経営していくことが大事ですが、単に株式価値を上昇させ、高値で売却をしたい、というものなのであれば、確実に売却できるIPOを目指すことになる、とは言えそうです。

ベンチャーキャピタル等投資動向調査(2018年度版速報) – 一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター

上場しないメリットは「自由な裁量」にある

上場することにより、顧客本位の経営、身の丈にあった細々とした経営よりも、収益重視の経営に変わり、株主の目を意識しなければならなくなる、とよく言われます。一方で、上場をすれば、社史にも箔が付きますし、事業を拡大する上での大きな足がかりとなります。

経営者の方々に聞くと、上場を一つの目的にすることは社員の士気が向上する一方で、上場の必要性を感じないという声もたくさん聞かれます。上場をすれば日々株主構成が変わり、また買収の脅威にも晒されます。結果として組織としての意思決定は柔軟ではなくなり、経営者の思いだけでやりたい仕事を続ける、ということはできなくなるようです。

未上場株式は譲渡しづらいとはいえ、売却の手段がないわけではないので、IPOはつまるところ一手段にすぎない、ということになりそうです。

経営者と投資家の利害は必ずしも一致しない

そもそも「会社は誰のものか」という議論は結論がありません。経営に積極的に関与する投資家もいればそうでない投資家もいます。関与したらしたで経営者と投資家が目標を共有して同じ方向に向かって頑張ることはありますが、本質的には「求めている結果」が異なっています。投資家にとっては投資資金と利益の確保が最終的な命題なのですから。経営者がやりたいことをやることが投資家にとっての最大の利益になる、とは必ずしもいえません。

一方で、投資家は複数の経営者を見定める立場にあることから、独自の成功体験を積み上げています。それは経営者仲間でのノウハウ共有とは別で、失敗しないためのノウハウだったりもするわけです。外部の投資家を入れることはナビゲータという側面でのメリットはありますね。

IPO(株式公開)に応募すべきか

さて、IPO後のことに視点を移してみましょう。一般投資家として、公開された株式に投資をすることはどのように考えるべきでしょう。ひと昔前は「IPOの抽選に当たって購入できれば必ず儲かる」というような意見も聞かれました。IPO時の株価設定はそこまでアグレッシブではなく、また株式公開後はしばらく資金流入が続くため、価格が上昇しやすい、という性質があったからですね。

ただし、最近は必ずしもそうではないという認識が広まりつつあります。IPOには証券会社が関わりますが、彼らも必死で案件を獲得しようと頑張っています。できるだけ高く株式の売り出しができれば企業にとってもメリットがありますから、IPO後に値下がりをする、ということも十分起こるものと言えます。IPOは安値で始まるオークションではな苦なりつつある、そのことをよく知っておくべきでしょう。

IPOはハズレくじか

もう一歩進んで、資金調達に困っていない企業がわざわざIPOをするとしたら一体どんな目的があるのでしょうか。個人投資家でも優良な企業の株式を持っていたいと思うように、機関投資家もまた同じことを考えています。わざわざ上場しなくても同じ利益が得られるのであれば、上場しない方が良いこともあります。それが上場する、ということは「そろそろ高値だから売り抜きたい」というニーズであるとも考えることができます。

日本郵政のIPO

2015年11月4日、日本郵政3社(日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)の株式が新規公開となったとき、売出価格を大幅に上回る好調な滑り出しだったことが印象に残っています。初回の売り出し総額は1兆円~2兆円でした。一方で、足元のかんぽ生命保険の不正販売問題などで、日本郵政の株価は低迷していますが、IPO当初はやはり良い株式だと認識されていたことは事実でしょう。

日本郵政、個人に95%販売 投資家の拡大と安定株主化目指す – ロイター通信

ウィーワークのIPO

2019年9月、共用オフィス「ウィワーク」を運営する米ウィーカンパニーがIPOを延期したことは大きな騒動となりました。コーワーキングスペースでの存在感をみるみると増したウィーワークは高すぎるIPO評価額(470億ドル)のために、ニューマンCEOは辞任し、経営方針を大幅に変更することになりました。

米ウィーワークがIPO撤回、中核事業に注力し財務改善 – ロイター通信

サウジアラムコのIPO

2019年11月、サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコが上場しますが、目標評価額は2兆ドル、今回の調達額は最大2.8兆円となる見込みです。史上最大とも言われるIPOですが、当初米国やカナダで想定していた上場ではなく、まずは国内投資家向けに売り出すことを掲げているのが印象的です。石油という手堅い収益源を持つ企業がなぜわざわざ一般投資家を募る必要があるのか、今後のニュースにも少し注目です。

サウジアラムコの評価額、皇太子が掲げた2兆ドルに届かず – Bloomberg

規模の大きなIPOは、一般投資家以外に買い手がいないことの現れでもあります。企業戦略として株式公開で得られるメリットが大きいと考えるとき以上に、既存の投資家が保有株式を何とかして高値で手放したいという背景があるときには、IPOは一般投資家にとってはリスキーになり得ることは認識しておく必要がありそうです。

最後に

このようにIPOは経営者、投資家それぞれの視点で非常に大きな節目になってきます。IPOには様々な動機と目的があるのです。それでもあえて言うならば、「企業名を知っている、有名だ」というのは投資における判断基準の一つではあっても、それだけでは投資成果はついてきません。可能な限り知識をつけて、リスクの洗い出しをしながら投資に臨むことが大事です。