海外信託の実用例を見てみる

富裕層であれば、海外プライベートバンクの利用以外にも、海外資産管理会社の設立、海外信託の利用など、海外資産の取り扱いを一度は必ず決める必要があります。

その際に意識したいのは、「相続」の問題です。

国際的な資産運用が一般化するにつれ、海外に資産を持つ人は増えましたが、日本国外にある資産の相続が一筋縄ではいかないことを多くの人は知りません。そこには、言語の問題、費用の問題、時間の問題など、様々な壁があります。

問題なのは、相続は本人の死後ですから、この壁に直面するのは残された家族であり、「何でこんな面倒なものを保有しているのか」「死ぬ前にちゃんと整理してくれればよかったのに」などの不満も出やすい分野なのです。

海外相続の最も簡単な解決策であり、生前にできることの一つは、プロベート(検認裁判)を避ける仕組みを入れておくことです。

生命保険であれば受益人を設定すること、銀行口座であれば共同名義にしておくこと、これらはほんの些細なことなのですが、大きな助けとなります。それ以外の資産だとどうでしょうか、恐らく「海外信託」が一つの回答になってきますから、今回はその実用例を見てみます。

海外信託における「信託財産」とは

日本の信託も海外信託も、信託する財産があって成立しています。資産管理会社と異なるのは、信託には株主がおらず、役員会などを開催する必要もないという点です。信託できる財産としては、

  • 流動金融資産 ー 上場株式、現物社債、投資信託、ヘッジファンド、生命保険
  • 非流動金融資産 ー 自社株式などの未上場株式
  • 実物資産 ー 不動産、絵画、ワイン

などがあります。基本的には、証券化されているものの方が信託では保有しやすいので、信託と財産の間にBVIなどのオフショア法人をかませて法人株式を信託するなどの方策は取ることが多いです。ただし、上記以外でも信託できる財産はありますので、まずは財産設計を考えることから始めるべきでしょう。

生命保険信託

よく使われる信託の一つは、生命保険信託です。生命保険契約における死亡保険金の受益者(受取人)を信託とします。相続税納税資金は信託内で支払いが行われ、その後も信託財産として、生命保険に入り直し、次の世代に引き継ぐ、ということもできます。特に、海外の利回りの高い運用型あるいは貯蓄型の生命保険であれば可能でしょう。

教育資金基金

海外信託の場合、信託財産は法的には元の所有者からの贈与として扱われ、信託が保有します。したがって、死後もLetter of Wishesを通じて、財産の分与の目的、時間軸を設定できます。子供が生まれたら1,000万円支給する、大学に通い始めたら 毎月100万円支給する、など様々であり、もちろん支給対象は血縁関係のない第三者でも構いません。

事業承継信託

法定相続人が複数人いるものの、長男に会社を継がせるため、自社株(日本国内未上場株式)を信託したうえで、Letter of Wishesを通じて議決権を長男に渡しておきます。自社株の分割しづらさをカバーする信託になり得ます。

チャリティ基金

生前に活躍した音楽家や芸術家などで資産を残したまま死ぬことに対して疑問を残しつつ、一方でそこまで残りの人生で資産を使い切りたいという思いもない場合、チャリティ基金としての信託を組成することがあります。例えば、現物債券や不動産などでの運用を通じて、出た利益の一部を若手音楽家の活動資金として提供する、といったものです。

海外信託の欠点はあるのか

様々な用途で利用できる海外信託ですが、デメリットや欠点はあるのでしょうか。

一つは、トラスト会社の信頼に加えて、弁護士や税理士などの様々な専門家とすり合わせが必要であるという点です。設計をしっかりすれば優れた信託になり、そうでなければ高い費用を払っても信託していた意味がない状態になる可能性があります。

もう一つは、国ごとに信託の扱いが異なっているという点です。日本の信託と海外の信託は法的根拠が異なっていますが、海外の中でもトラストを認める国もあれば認めない国もあったりします。

それに信託そのものが法的には海外で取り扱われたとしても、もし日本の居住者が関わっていれば、日本における相続税あるいは贈与税から必ずしも逃れられるわけではありません。そして、日本国内にある資産とも合わせて考える必要があるので、判例が少ない中で、相続に取り組んでいく必要があることには変わりがありません。

海外信託にかかる費用

信託設立に関しては、弁護士に何かを依頼するのを基本的には同じ仕組みです。そもそもクライアントとして何がしたいのか(どういう資産をどのように信託したいか)によって、費用が変わってきます。

最もシンプルな生命保険信託であれば年間数万円程度で請け負うところもありますが、ある程度の使い途の幅を残した状態であれば年間100万円から数百万程度、不動産等になれば実務作業が増えるのでその分の割増料金が課される場合もあります。

金融資産であれば、最近はトラストはCRS(共通報告基準)の報告も行なっていますから、追加的な資料作成にチャージがかかる場合があります。

まずは見積もりをもらってみることが大事です。ただし、見積もりを低めに出して都度課金するところもあれば、まとめてざっくりと出し、細かな費用は丸め込んでくれるところもあります。大切な資産を預ける場所ですから、しっかりとコミュニケーションがとれ、信頼ができるところにお願いするのが良いでしょう。

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