資産配分を決める投資方針書(IPS)を作ろう

資産の配分を決める作業のことをアセットアロケーション(Asset Allocation)と呼びます。なんとなくこんな感じかな?といった決め方をすることもあるでしょうが、その方法はある程度定式化されています。今回は、その資産配分を示す、投資方針書(IPS)について触れてみましょう。皆さんも是非ご自身の投資方針書(IPS)を作ってみてはいかがでしょうか。

アセットアロケーションの重要性

改めて、アセットアロケーション(Asset Allocation)とはどのようなプロセスかというと、

投資家の資産を様々なアセットクラスに、様々な割合で配分する上での決定プロセス

であるとされています。

最終的に“決定”しなければなりませんから、そのために必要な様々な条件が考慮される、ということになります。また、アセットアロケーションでは、個別のどのような銘柄に投資をするか、までは決定しません。あくまで、株式や債券、オルタナティブなど、アセットクラスと呼ばれる分類に沿って配分するのみであることは念頭に置いておきましょう。

投資家の多くは銘柄選びに時間を割きますが、一方でなぜアセットアロケーションは重要なのでしょうか。

一つには、運用資産額が増えればより分散したポートフォリオを構成することができ、その場合は、個々の銘柄のパフォーマンスが全体に与える影響は相対的に小さくなるからです。

もう一つには、運用資産の平均リターンを考える上で、大部分がそのアセットアロケーション方針によって説明ができるからです。

つまり、投資家の多くは“木”を見ることに一生懸命になりますが、実は“森”を見ることで多くのことが分かる、というものです。ただし、その上で“木”を見ることも大事だという話を後ほどします。

アセットアロケーションのステップ

どのような方法でアセットアロケーションを行うかはもちろん投資家によりますが、ここでは一般的なステップを紹介します。

  • 1 資産の保有者を特定し、運用の目的と制約を明らかにする
  • 2 投資方針書(IPS)を策定し、アセットアロケーションの大枠を決める
  • 3 アセットアロケーションの大枠に沿って具体的な投資資産を決定する
  • 4 最適な割合で資産を配分し、投資する
  • 5 投資の状況をモニタリングし、評価する

ざっくり言えば、大枠から詳細へと段々と詰めていき、その後やったことを見直す、ということです。

運用の目的(Objectives)を定める

皆さんにとって運用の目的とはただ資産を増やすこと、でしょうか。ただ、資産を増やすにしてもどれくらい増えれば良いのでしょうか。一つには、老後のため、あるいは、開業資金のため、などお金を必要とする何か別の理由があるのではないでしょうか。

ここで定めるべき目的はそういうものであり、ゆえに○%のリターンを目指す、ということになるのです。人間は○%という数字以上に、それによって達成された目的が何か、を大事にする生き物です。リターンとリスクは表裏一体であることを理解しながら、妥当と思える水準を書き出しておきましょう。

運用の制約(Constraints)を挙げる

制約なんてあるのか、と思う人もいるかもしれませんが、これは実際冷静になって具体的に列挙してみることをお勧めします。

例えば、流動性(Liquidity)です。投資資金なんてなくなってもいいお金だ、と思っている人もいれば、家族を支える大切な資金だ、と思っている人もいます。“いざ”となるタイミングはどのようなときなのか、そして“いざ”となったらどのように解約や出金ができるのか、などを把握しておくことは大切です。

それ以外であれば、投資期間(Time Horizon)です。あなたの年齢は今何歳で、その投資にはどのくらいの時間をかけられるのでしょうか。5年後に使う必要のある資金を、10年の投資に回してしまってはいけません。

そのほか気付きづらいのは、税金(Tax)の問題や、金融規制(Regulations)の問題です。いや、もちろんどのようにすれば税効率がいいかは考えるのですが、目先の税金に気をとられ、長期的な視野に立てないことや、金融規制あるいは法律上できない/できるを考えないことがあります。

投資方針書(IPS)を策定する

運用の目的と制約が決まれば、次は投資方針書(IPS)の策定に移ります。これまでただの数字としての余剰資産だったものが、やや“立体的な”余剰資産に変わったのではないでしょうか。IPSではこれを具体的に明文化します。一般的には7つの要素が挙げられます。

  • 1 投資家とその資産背景(Background)
  • 2 運用の目的(Objectives)
  • 3 運用の制約(Constraints)
  • 4 アセットクラス(Asset Classes)
  • 5 運営(Governance)
  • 6 報告とモニタリング(Reporting and Monitoring)
  • 7 戦略的アセットアロケーション(Strategic Asset Allocation)

戦略的アセットアロケーションとは

IPSの最後にしれっと出てきた戦略的アセットアロケーションとはどのようなものなのでしょうか。最初に「大枠」として定めたアセットアロケーションが、会社で言えば中期経営計画に相当するものであり、これがすなわち戦略的アセットアロケーションです。

一方で、戦“術”的アセットアロケーション(Tactical Asset Allocation)と呼ばれるアセットアロケーションのプロセスもあり、いわば、当期の経営方針に相当すると考えるとよいでしょう。この四半期はどうしよう、半期でこのような方針で取り組もうなど、より短期的な環境を踏まえたものになります。そして、ここでは具体的な銘柄の選定も行います。ただし、「大枠」をはみ出してはいけません。

投資方針書(IPS)はなぜ重要か

ここまで細かなことをするのは機関投資家のような大きな投資家で十分だ、と思った方もいらっしゃるかもしれません。一方で、登場した多くの事柄は、個人投資家の頭の中にはなんとなく登場することです。大事なのはそれを「明文化したのかどうか」です。

投資には行動バイアスがつきものですから、「あのときはこう考えた」「もともとこうするつもりだった」など、後から見て振り返ることができるだけでも投資家としての冷静な行動を促します。

何も完璧な投資方針書を策定する必要はありませんが、頭の中で考える内容をカタチにするだけで投資家としての大きな第一歩を踏み出せるのではないでしょうか。もし一人ではどうしたら良いか分からないという方がいれば、お問い合わせください。専門家をご紹介いたします。

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