コロナショックの経済的本質とその先を見極める

コロナショックを定義する

2020年、中国を起点として新型コロナウィルス(COVID-19)が世界中に広まってパンデミック状態に突入、欧米の都市圏ではロックダウン(都市封鎖)が起こりました。時期的にはどうでしょう。中国の旧正月(2020年1月末)からおよそ3ヶ月くらいが最悪期だったと言えるでしょうか。

これにより、世界的な不況が到来したことが確認され、失業率の急上昇にも繋がっていきます。多くの経済活動が停滞したことにより、リーマンショックを超え、世界大恐慌と近い状態になることが予想されています。

リーマンショックと比較されるのはなぜか

景気には波があることが理論的に支持されており、前回の不況はリーマンショックによってもたらされたものでした。その後の期間はリーマンショックからの立ち直りとして認識され、コロナショック前であっても、米国を中心としたリセッションの予想は後を立ちませんでした。

結果的には、リセッションのトリガーとしての新型コロナウィルスは「ブラックスワン」であったとは言えるでしょうが、遅かれ早かれくるはずだったリセッションなのかもしれません。

これまでのところコロナショックで金融システム不安は観測されていません。もちろん、いくつかの金融市場で特に3月中旬にパニックが起こったことは疑いがないですが、各国の中央銀行による迅速かつ包括的な対応により一旦は安定を取り戻したかに見えます。

各国財政の方も決して簡単な状況ではありませんが、各種の経営安定化策を打ち出し、コロナ収束後に向かっては景気刺激策としての財政出動が行われる可能性が高いですから、リーマンショックのように大きな傷跡を金融システムに残すことなく、成長軌道に戻っていくことも予想されます。

コロナショックに内包される2つのストーリー

1 逆オイルショック

コロナウィルスの世界的流行を受けて、OPECプラスと呼ばれる石油連合は大幅な協調減産を模索しましたが、ロシアの反対により失敗しました。その後、協調が困難になった状況を踏まえて、サウジアラビアは一転して増産を目指すことになり、原油価格は50%以上下落しました。

これにより、採算水準を下回る価格での推移が決定的となり、事業整理に向かう採掘企業などが大量に発生する、すなわち石油産業に対する投資が一斉に含み損を抱え、デフォルト懸念が高まったことになります。

石油価格の下落自体はトランプ米大統領が話しているとおり、消費者にとってはガソリン価格の低下などで恩恵がありますから悪いこととは一概には言えません。

ただし、盤石と見られた石油関連企業の倒産の影響が金融市場に波及することは大きく見積もられ、コロナショックにおける最も大きな株価下落を演出しました。

2 人の移動の制限とサプライの断絶

初期の時点で、ウィルスがヒトーヒト感染を起こすことが確認され、海外との人の往来によってウィルスの輸出入が起こる事象が観測されました。そのため、各国は徐々に渡航制限をかけ始め、それが世界全体の渡航制限という前例のない対応へと発展しました。

各国は人の移動を国内に制限し、ウィルスの感染の経路特定と抑制に動きました。そして、人の移動の制限はモノの移動の制限にも繋がっていきます。グローバルな時代において、生産効率化のため、原料は◯◯国で、部品製造は△△国で、組立は◻︎◻︎国で、そして販売は××国で、といういわゆるサプライチェーンが築かれました。その中でも世界の工場とも言われる中国で生産されるモノは多かったため、サプライチェーンは見事に断絶しました。

ただ、今回のサプライの断絶は企業が倒産したわけではないため、生産活動が再開さえできれば何事もなかったかのように振る舞うことが可能である点は注目に値します。つまり、まだサプライの断絶が起こっているだけでありサプライチェーンの崩壊が起こっているわけではないということです。

2つのストーリーを混同しすぎてはいけない

上で述べた2つのストーリーはもちろん関係があり、両者が絡み合うことによってコロナショックの規模を増幅したことは言うまでもありません。

しかし、2つのストーリーは本質的には別物であり、混同したものを一つの事象として考えることはその後の回復の過程についても誤解を与える可能性があります。逆オイルショックに関しては、一定の生産を保つ中で、世界的な石油需要が低迷するため、すぐに石油価格が改善するわけではありません。

そして、株式市場の戻りのために、石油価格の回復が必要なわけでもありません。一方で、安く入荷された在庫がすぐに市場に放出されるため、実は経済刺激としては非常に大きなものになることが予想されます。

一方、人の移動やサプライの制限については、制限期間の程度によって徐々に経済に影響が出てくるものですから、今後の「不況」がどの程度のものになるかを決めていきます。

つまり一般には、コロナウィルス蔓延による世界経済減速懸念が未曾有の株価急落を生み出したと考えられていますが、必ずしもそうではないということであり、実体経済の感覚をおいておいて株価が回復することは筋が通っており、ただ、そのスピードが抑制されるかどうかは今後の動向次第なのです。

コロナショックのその先を見極める

コロナショックにより大きな爪痕が残されたのは、航空業界、クルーズ船業界、観光業界のような気がします。

これまでは、グローバルな時代の促進、国家間の相互交流により成長加速してきた領域が急速に姿を変えていく可能性はあります。

一方、インフラ化していくGAFAといった大型企業はコロナショックにおいても比較的強靭な財務を示しており、コロナショックサバイバーとして、今後の経済の主役にさらに踊り出ることが想定されます。

この先数年はポストコロナのあり方をイメージしながら事業を展開していくこと、投資活動に望むことが必要と思われます。

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