2020年の金融市場中間振り返り

2020年のブラックスワンはウィルス

2019年終わりにかけて、金融市場環境の見通しがダウンサイドに傾いていることを指摘したレポートは多かったですが、少なくともウィルスの流行をその要因として挙げた人はいませんでした。ウィルスが世界中に広がるにつれて、各国政府はロックダウン措置を導入し、結果として世界経済活動を止め、最も急速なベアマーケットを呼び込みました。

これに対して、政府や政策決定者はすぐさま対応し、景気刺激策を打ち出しました。金融市場は急速に回復し、リスク資産は損失の半分以上を2020年6月中旬時点ですでに復元しています。特に、米国の投資適格級社債等、特定のセクターはパンデミック前の水準まで戻しています。

急激なリバーサルに対する評価は分かれる

ベアマーケットからの急速な回復(リバーサル)は市場参加者の間でも評価が分かれています。一つには、世界経済へのダメージの程度を考えると、金融市場は合理的でない、という説。もう一つには、金融市場はフォワードルッキングであり、近い将来に大きな実体経済のV字回復を見込んでいるだけだ、という説です。

両方にはそれぞれのロジックがあるので、どのように比重を向ければいいか、という話になります。多くの人は、こうした複雑な市場環境においては、自分にとって都合の良い方に情報を解釈するバイアスがかかりやすいので、上手く情報を整理することが大切です。

リバーサルを楽観的に捉える

楽観論の方の事実を紐解くならば、3月に米連邦準備銀行(FRB)が大規模な量的緩和措置を発表し、世界金融システムに流動性を大量供給したことで、実際に債券発行は難なく行うことができました。

また、中国を始めとする多くのアジア諸国では経済の漸進的な再開が行われており、徐々にではありますが、日常へと戻る軌道に乗っているとは言えそうです。

さらに、市場の経験則ですが、特定の出来事がきっかけとなるショックの場合、経済も金融システムも元に戻ります。それは、オフィスワーカーは休日を挟んで月曜日には戻ってくるのと同じ理屈です。

リバーサルを悲観的に捉える

悲観論の方の事実を紐解くならば、やはり感染の第二波が既にいくつかの国で観測されていることです。実際、中国の北京では、クラスターの確認後に学校の閉鎖などが行われました。ただし、ロックダウンは経済に与えるダメージが大きく、そして健康上の危機に各国が備えられていることを踏まえると、再度の厳しいロックダウンを課すことはメインシナリオではありません。

また、経済データで見ても、確かに底打ちはしているものの、想定よりも戻りが鈍いことも挙げられます。確かに地方政府が、失業者に対して給付をするのは難しいことではありませんが、長く仕事に出なかった場合、何事もなかったかのように仕事を再開することは容易ではありません。

さらに、世界の政府が、経済の安定化を優先した結果、財政検証を諦めていることです。公的債務は膨らみ、公的セクターのバランスシートは痛んでいますから、長期的にはネガティブな影響があると考えるのが自然です。

不確実性は依然として高い

最近はMMT理論(Modern Monetary Theory)がしばしば引き合いに出されています。政府の歳入と歳出を気にするのは古くさく、自国通貨を発行する国は財政赤字の心配をする必要がない、というのが単純化された内容です。ただ、理論としてはまだ若く、論争も多い上に、結局は理論でしかないので過度な期待をすべきではありません。少なくとも、日本のように、イールドカーブコントロールや国債を政策ツールとして用いることで達成されている、長くそして低い金利は債券投資家にとっても悪い話ではありません。

先行きを考えてみても、想定できる結果は非常に幅広いのではないでしょうか。ただ、激しい値動きの市場を乗り越えただけで少し安心している投資家も多いのではと思います。

短期的にすら何かが予言できる訳ではないものの、少なくとも米国、欧州、アジアは少し違った金融市場の動きをする可能性はあります。米国の場合、FRBの支えを得て投資適格級社債に投資するのは自然な発想ですが、パンデミック前と同じ水準というのはやはりデフォルトリスクを過小評価している可能性もあります。国債金利がゼロ近辺に止まる中で、どういった資産に投資をすれば良いのか、投資家の悩みは尽きません。全てを現金で持つ訳にもいかないので、ある程度の割合をリスク資産に振り向けていく、ということにはなるのでしょう。

パンデミックの行方が分からないからといって投資家として何もできない訳ではありません。ポートフォリオをしっかりとダウンサイドから守るためには、よりセクターや企業、銘柄を注意深く選びながら、確実にリターンを稼いでいく姿勢が求められるのかもしれません。

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