海外移住前に年金づくりをすべき理由

平均寿命が伸び、働き方が変わってゆくなか、40代、50代でセミリタイアを考える人は多くなったと言えるでしょう。第二の人生は、東京ではなく、日本の地方で、あるいは海外で、という選択肢も増してきています。特に海外移住に関しては、ここ十数年で加速したと言えるでしょう。

もちろん、海外への憧れも移住の動機ですが、より物価の低い国に住むことで豊かな生活を送りたいと考える人もいるようです。

海外移住に夢を抱きつつも、気をつけるべきことがたくさんありますので、今回は年金づくりという観点からお話をしたいと思います。

海外移住後も日本の公的年金を受給可能

金融制度は、もともとその国に住む人を対象にして作られているので、基本的には移住後の国での金融制度に依存することには注意が必要です。一方で、多くの人にとっては日本の公的年金が一つの収入になることが期待されていますが、果たしてどうでしょうか。

結論から言えば、日本の公的年金は海外在住者も受け取りが可能です。もちろん、任意加入などを通じて年金保険料をきちんと受給対象要件を満たすまで支払い続けたことが大前提です。したがって、年金手帳を通じて自分自分の加入期間と支払記録をしっかり確認しておくことが重要です。

ちなみに、移住した後にその国の年金制度に加入することも可能で、多くの国では強制加入です。ただし、社会保障協定で結ばれている国については、母国で年金制度に加入していれば、現地で加入する必要はなくなります。海外駐在員の多くが、日本の厚生年金のみに加入しているのはこういった理由からですね。

受け取り開始に関しては、各自で年金請求をする必要があり、一定の年齢になったからといって支給が開始されるわけではないことに注意が必要です。

実際の受け取りに関しても、日本在住時同様、年2回の支給であり、指定金融機関に振り込まれます。ただし、生存確認として、年1回届く、現況届は在留証明書とともに提出する必要があります。

銀行口座は原則居住地で開設すべき

日本に住所がある人であれば、日本で開設した銀行口座は維持できる可能性が高いですが、これについては100%確実とは言えません。また、生活地が変わるのであれば現地で銀行口座を開設するのが一般的です。

日本では、銀行にお金を預けておけばどのような時も安心、といった認識があるかもしれませんが、例えば移住先が新興国であった場合、金融制度がどのようになっているかは確認が必要です。銀行預金で言えば、金利が高いので魅力的に感じ、資金を多く置いておきたいという木になるかもしれませんが、ひょっとしたら預金保険制度はないかもしれません。また、金利が高いのはインフレ率が高いことと概ね一致しているので、通貨価値の低下に晒されるかもしれません。

日本で契約した保険から死亡保険金は下りないかも

日本国内で契約した保険についても基本的には日本国に住み、そこで亡くなることを前提にはしています。保険料の算出にあたっては保険数理上の母集団を仮定するので、これが先進国なのか新興国なのかで全然変わってきます。

日本は平均寿命の長いので保険料は安いですが、新興国はそうではないかもしれません。移住後はカントリーリスクを考慮して、保険料が高くなる可能性がありますし、例えば危険地にわざわざ行っていたと判定された場合などは死亡保険金が下りないといったことも可能性としてゼロではありません。保険会社に対しては「海外渡航届」を提出しておくことが望ましいです。

外貨建てでの年金づくりが重要

日本の公的年金が日本円で支払われることは正直どうしようもないのですが、海外移住をする場合は、海外資産を形成しておくことがベターです。その際は、日本円ではなく、そして移住先の通貨でもなく、価値の安定的な通貨、例えば米ドル建ての方が好ましいと言えるでしょう。

一番の理由は、リスク分散です。現地に相応の預金を持つことは生活をする上で非常に重要ですが、インフレ率や経済成長率を反映して、生活水準は徐々に変わっていくことが想定されます。その意味で、現地との相関が低い通貨の方が良いです。

また、年金づくりは早い段階で始める必要があるため、その時点でどこの国に移住するかまでは決まっていない可能性が高いからです。米ドルであれば世界の主要通貨なので、どこの国に行っても両替をしてくれます。

外貨建てでの年金については、定期収入と考えてもいいですし、いざとなれば使える資金という形にして必要なときに引き出すことにしてもいいと思います。

海外移住の資金手当は綿密な計画を

以上に見られたように、海外移住にあたっては、ギリギリの資金計画ではなく、可能であれば余裕をもっておくことが大事であり、かつ不測の事態に耐えられるよう、分散された資金管理が求められます。その中でも年金づくり、設計は極めて重要になってきます。手続などで日本と現地を頻繁に行き来する羽目になり、結果として高くついた、などということにならないようにできるといいですね。