プライベートバンクでの手数料(運用経費)

プライベートバンクに資金を預ければ、無リスクで高利回りの商品が手に入る、だから富裕層はずっと富裕層でいられるのだ、そんな幻想を抱く人もいるかもしれません。高利回りな特殊商品がある一方で、コストが高くつく、ということも実際にはあります。今回は、プライベートバンクでの手数料(運用経費率)についてまとめてみましょう。

プライベートバンクでの手数料の種類

クライアントである投資家がプライベートバンクに支払う手数料には大きく分けて4つのタイプがあると言えます。

いくつかの種類の手数料をそれぞれ明示しながら徴収する事業者もあれば、一貫して1種類の手数料しか徴収しない事業者もあります。

金融規制の適用を受ける正規事業者であれば、手数料は明確に公開している、あるいは要求すれば公開してくれるものです。

① 預り資産基準手数料

金融先進国であるアメリカなどでは既に普及していますが、日本ではこのタイプの手数料体系を持つ事業者が徐々に増えている、くらいの普及率です。これは、預り資産、すなわち口座残高に応じて年間○%が差し引かれるものです。

1億円を預けておけば、年間2%の手数料で200万円が経費となります。単なる口座維持手数料と異なるのは、ここにカストディ費用(証券保管費用)や証券売買手数料、アドバイザリー費用などが諸々含まれている、パッケージ費用になっているということです。

この基準で見るならば、プライベートバンクでは年2〜3%くらいの手数料を取っているところが多いようです。

この手数料体系のいいところは、1年間にどのような取引をしても手数料がほとんど変わらないため、売買のたびに手数料について考える必要がなくなります。もちろん、預り資産の種類、すなわち売買をあまりしない現物債券なのか、あるは積極的にポートフォリオの組み替えをするような運用なのか、で、言ってみれば原価率が異なるので、プライベートバンクからクライアントに提示される手数料もまた、変動し得ると考えられます。

また、パッケージ費用の中には固定費も含まれるので、預り資産の規模が大きくなると手数料がパーセンテージで言えば低くなる、という形態にしていることもあります。

預り資産基準手数料のメリット

  • 資産が成長するにつれて手数料が増えるため、クライアントと事業者にとって資産を増やす、ということに対するインセンティブが一致している
  • 事業者は安定した手数料が入るので、クライアントにメリットのない、あるいは預り資産を減らすような金融商品を勧めることがない

預り資産基準手数料のデメリット

  • 成功報酬とは違い、資産を増やすことに対し事業者は必死にはならない
  • 取引やコミュニケーションの頻度が少ないことが事業者の利益率の向上に繋がる

② 固定報酬型

一般には、個々のサービスには値段がつけられます。なので、より透明性のある手数料を好む場合は、顧問弁護士の顧問契約のように固定報酬型が採用されます。都度請求の場合もありますし、単純に預り資産の額によらず、一定の金額を支払い、一定の水準までのサービスを受ける、というものです。

固定報酬型のメリット

  • クライアントの期待するサービス水準と報酬の比較がしやすい

固定報酬型のデメリット

  • 事業者はクライアントの資産を伸ばすことにインセンティブがなく、資産が減っても気にならない

③ 売買手数料型

金融商品の売買、すなわちブローキング(仲介)業務で一定の手数料を支払うという手数料体系です。証券会社のプライベートバンキング部門などはこのタイプが多いです。

事業者から見れば、顧客の資産を預かっている、というよりは金融商品をいかに上手く売買させるか、の観点が強くなります。実際、売買手数料に強いインセンティブが与えられた結果、クライアントに適合性の原則を無視した提案や、高い手数料の商品を売りつけることで、貧乏神のようになってしまった例がアメリカなどでは問題視され、売買手数料型はやや下火となっています。

世界的にも売買手数料は下降トレンドにあり、悪質なものに出会う確率は減っていますが、それでもクライアントの側から必ず確認すべきものではあります。複雑な商品ほど、手数料が高いのですが、クライアントからはそうは見えない、ということもあります。手数料の開示がなかった場合は慎重になるべきでしょう。

売買手数料型のメリット

  • 都度の手数料なので、お互いに割り切った関係ができる

売買手数料型のデメリット

  • より手数料の高い金融商品を勧められる
  • クライアントの資産を増やす提案よりも、売買をさせやすい提案の方が多くなる

④ 成功報酬型

預り資産の増加に対し強いインセンティブを与えるのが、成功報酬型です。つまり、資産が増加した分に対して●%の手数料を受け取る、というものです。

もし成功報酬が20%で資産が1億円から1億2千万円まで増加した場合、利益の2千万円のうち20%、つまり、400万円が事業者に支払う手数料です。そうすると、本来20%の利益だったもののうち、クライアントの手元には16%が残ります。

成功報酬型のメリット

  • 資産を増やすことに対する手数料であることが明確になる

成功報酬型のデメリット

  • ハイリスクな資産に投資をする可能性が増える

プライベートバンク手数料の粘着性

プライベートバンクの利用にあたっては、もちろん受けるサービスは大事ですが、担当のプライベートバンカーとの関係性も大事です。手数料交渉が過度に行われればそもそも仕事として成り立たなくなったり、あるいは適切なインセンティブを失ったりします。

最も大切なのはお互いの“腹落ち感”であって、安定的なリレーションです。プライベートバンクを利用するクライアントにとっては手数料が高い安い、というよりは信頼できる人物に適正な金額を支払うという意識が強いように思います。

そのため、ネット証券や投資信託の費用に比べて下方圧力がかかりづらく、単に資産運用というだけでない、包括的なサービスとして受け入れられているように見受けられます。

とはいえ、プライベートバンカーも仕事である以上、稼ぎは多い方がいいと考えるときもありますし、またそれが事業者側からのプレッシャーによってもたらされる場合もあります。関係性を重視しすぎて、手数料の金額やサービスの水準をクライアントの側から評価できなくなることは避けるべきであろうと思います。手数料の話は納得するまでしっかりと聞き、そしてサービス利用中もしっかりチェックすることが大切です。

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