本稿のタイトルをプライベートバンクの「組織」に限定してみましたが、全く異なる2つの切り口が存在するように思うので、別々に考えてみましょう。
一つ目の切り口は「プライベートバンクの成り立ち」に関してであり、二つ目の切り口はより実務的な観点である「プライベートバンクの担当者構成」に関してです。
切り口1 プライベートバンクの成り立ち
- パートナーシップ=無限責任なのか有限責任なのか
もともとプライベートバンクには創業者一族があります、彼らは家業として銀行を運営しているため、パートナーシップに基づき、事業リスクを負います。ただし、無限責任パートナーシップの形態は徐々に衰退し、有限責任=株式資本とする例が増えてきています。よりグローバルに活動し、様々な国の金融規制に準拠するためです。
ちなみに本場スイスでは「プライベートバンカー」という名称を公式に使用できるのは、無限責任を有する個人が所属する組織のみと法律に定められています。スイスプライベートバンカー協会(Swiss Private Bankers Association)に所属しているプライベートバンクです。
また、無限責任にこだわらなければスイスプライベートバンク協会(The Association of Swiss Private Banks)もよく知られています。
ただ、この観点はどちらかといえばプライベートバンクという組織形態が生まれた歴史的観点です。もちろん、個々の企業理念のように「プライベートバンクの理念」として刻まれるものもありますから、長く付き合いがあれば重要にはなってくるかもしれませんが、表面的にはなかなか分かりづらい部分です。プライベートバンクを利用していたとしてもほとんど気にしなくてよい面なのかもしれません。
切り口2 プライベートバンクの担当者構成
- リレーションシップマネージャー
プライベートバンクにおいて顧客に対応する窓口は「リレーションシップマネージャー(RM)」という肩書きを持つ、専任担当者です。
シニア担当者とジュニア担当者がいる場合もありますが、プライバシーも重視されるプライベートバンクですから、顧客が望まない場合は、他の担当者に会うこともないかもしれません。リレーションシップマネージャーの役割は顧客に関わることの全てです。口座開設やM&Aの相談、ご子息の留学相談など、相談内容は多岐にわたります。
業務範囲が広いこともあり、金融機関などでそれなりの経験を積んだ、40代以降にプライベートバンクのリレーションシップマネージャーとなるケースが多いようです。近年は若手化の進行により30代の担当者も見られており、経験面での不足があったとしても、年齢面では顧客とより長い関係を築き得るという点で、若手の担当者を好む顧客も多いようです。
- アシスタントリレーションシップマネージャー
とはいえ、リレーションシップマネージャーが一人で全てをこなすのには限界がありますから、「アシスタントリレーションシップマネージャー(ARM)」を副担当者としてつけることもあります。プライベートバンクの独特の業務に慣れるための若手の育成という面があるケースや、事務処理関係を一手に担う者として機能している場合もあります。
- インベストメントカウンセラー
プライベートバンクにももちろん内部でコンプライアンス担当やIT担当など様々なスタッフがいますが、顧客と直接会うことはなく、リレーションシップマネージャーが内部で連携をとるのみです。顧客に直接会う可能性のある担当者としては、あとは「インベストメントカウンセラー(IC)」であろうと思います。インベストメントカウンセラーは通常、プライベート内部での金融プロダクトのリサーチや推奨、リスク管理などを行う部門ですから、原則的には内部スタッフです。ただし、顧客に提供するプロダクトによっては、リレーションシップマネージャーよりもインベストメントカウンセラーから直接説明をした方が良い場合もあり、その場合は顧客との面談に同席します。
プライベートバンクの顧客は一人ひとり全く異なる人生を歩んでいますので、異なったニーズを持っており、それに対応できるプライベートバンカーたちもまた非常に優秀であると言えるでしょう。少なくとも2ヶ国語以上を扱い、3ヶ国語、4ヶ国語を使いこなす、国際派のプライベートバンカーも多いです。
また、頻繁に電話をかけてくる証券会社の担当者とは異なり、顧客が忙しいことを知っているので、程よい距離感を保つのにも長けています。ただし、1年に1回は運用状況の報告などの面談を設営することは推奨されています。
まとめ
本稿ではプライベートバンクの組織について基礎知識のようなものをまとめましたが、実態としての運用は個々で異なっており、また組織は流動的なので、もし新しいプライベートバンクでの口座開設を検討する場合は、担当者との相性はもちろん大事ですが、組織についての質問をしてみるのもいいかもしれませんね。