テスラ社の株式はなぜ上昇するのか

今回は、コロナショックの最中にも株価上昇を続ける、テスラ社について考察してみたいと思います。

テスラという自動車会社

日本には、トヨタや日産など、日本の製造業を支えてきた大手自動車メーカーがありますが、日本人にとってテスラの自動車はあまり馴染みがないかもしれません。テスラ社の概要は以下になります。

テスラ社(Tesla)は2003年に設立され、アメリカ合衆国シリコンバレーを拠点に、二次電池式電気自動車、ソーラーパネルや蓄電池等を開発・製造・販売している自動車会社です。創業者かつ現CEOはPayPal共同設立者でもある、イーロン・マスク氏です。時価総額では1000億ドル(約11兆円)を突破(2020年2月22日)し、独フォルクスワーゲン(VW)を抜き、自動車メーカーとして世界2位に躍進しました。そして、2020年7月1日、ついにトヨタ自動車の時価総額約22兆円をも抜き、世界第1位となりました。

それでもなかなか街中でテスラを見ることがまだ少ないのはなぜでしょうか。テスラが若いブランドであるのに対して、日本ではまだ大手自動車メーカーの方が強いですね。ただ、テスラのモデル3は人気が出てきており、生産拠点としても年間50万台を生産できるいわゆる“ギガファクトリー”を複数擁しています。

テスラ社の株価急落の記憶は既に記憶の彼方に

2019年4月24日に発表した2019年1~3月期の決算で、最終損益赤字かつ資金繰り逼迫が見え、株価急落に見舞われたことを覚えている方もいるかと思います。「クルマを売ることだけを考えていない」というイーロン・マスクの語るビジョンに投資家から疑義が呈された瞬間でした。ただ、その後はまたしてもイーロン・マスクの語るビジョンにより株式価値は再評価され、怒涛の株価上昇へと至っています。およそ1年で5倍の株価急騰ですから、記録的な株価成長であることに間違いはありません。

マスク氏の電気自動車(EV)への情熱

皆さんも遠くない未来にEVの時代が来ることを何となく予感しているかもしれませんが、正直まだそれほど身近ではありませんよね。

実際に自動車を利用するとなったとき、やはり街中にあるのはガソリンスタンドであって、わざわざEVを買うという目立った行動に出る必要はありません。パソコンと同じで、初期の価格は非常に高いこともありますしね。

ただ、そのEVの未来が近づいていると感じているのは、まずは投資家の方です。大手自動車メーカー各社がこぞって開発を進める中、誰よりもEVの未来を語るイーロン・マスクに今世界の投資家が注目しています。

テスラの株価はなぜ上昇するのか

新型コロナウィルス流行により、自動車に対する需要は多くないはずなのになぜ、テスラの株価は上昇しているのでしょう。

株価上昇の始まりは中国事業に関するニュースでした。テスラのギガファクトリー上海は、2019年1月着工から、11ヶ月という短い期間を経て、2019年10月23日に中国政府から製造認可を獲得、同年12月30日には中国現地生産の「モデル3」を出荷することを発表しました。中国という巨大マーケットで「クルマを売る絵空図」を具体的にしてみせたところが、結果的に信頼回復に繋がったと言われています。あとは、本当に「クルマが売れるか」で一つの答えが返ってくることになるでしょう。

春節からの新型コロナウィルスの影響が懸念されましたが、1月29日の2019年第4四半期決算で、納車台数の伸び、市場予測を上回る黒字化を果たしたこともあり、テスラ社の株価は急騰しました。

一方で、テスラと言えば、アナリストの間で「売り」銘柄として名高いですね。実際、空売りの投機筋は多く、直近の上昇は、売りポジションの解消(=買い戻し取引)によるものだという声もあります。株価上昇に伴って、取引高が急増したことも確認できますから、買いそのものも多かったことでしょう。

テスラ社は2020年8月11日、普通株1株を5株にする株式分割を取締役会で承認しており、高騰した株価でも社員や小口な投資家がより多く購入できるようになるので、さらなる株価上昇が期待されています。今年3月には350ドルだった株式が半年も経たずにその5倍の2000ドルを超えていますから、破竹の勢い、と言えるでしょう。

テスラが株式分割、普通株1株を5株に、時間外で株価上昇 – Bloomberg

テスラ 株が上昇、一時2000ドル突破 – 時価総額はウォルマート超え – Bloomberg

次に話題に出ているのはテスラ株がS&P500の銘柄に選ばれるのではないか、という点です。

もしインデックスに含まれるようになれば、必然的にETFなどから大量の買い注文が入るので、さらに株価上昇が見込まれるのではという期待感も呼んでいます。ただ、インデックス算入銘柄には様々な基準があるので、選定が既定路線というわけではないことに注意が必要です。

テック企業としてのテスラ社

一転して投資家から支持を獲得したと見えるイーロン・マスク氏ですが、2月13日の報道によれば、早速公募増資を検討しました。1月29日の四半期決算発表で「資金調達するのは理にかなっていない」と発言したばかりでしたが、株価が上昇したタイミングでの増資は非常に効果的なので、好機を逃すまいといったところです。

テスラを自動車メーカーとして見るなら、投資家の支持を得た上で、まさにこれから成長期に入っていくと言えるでしょう。自動車業界自体は大手の牙城、つまり成熟産業でしたから、同様の新興メーカーは当面はいないはずです。ヨーロッパではドイツでギガファクトリーの建設を進めていることもあります。

ただし、自動運転といったテック系の技術会社として見るほうが、今のテスラの様子をよく表せるのではないでしょうか。「スタートアップとして資金調達をしている」「株価が大きく動いている」そんな印象が強いですから。

なお、発電・蓄電といった事業分野も抱えており、インフラに近い領域でも優位性を確立することは期待できます。