今回は違う?ITバブルの様相を紐解いてみる

ITバブルとは?

ITバブルという用語は、1990年代初期から2000年代初期にかけてアメリカを中心にして起こった、インターネット関連企業の株式の異常な上昇のことを指し、インターネット・バブル、ドットコム・バブルとも呼ばれます。ピークは1999年から2000年であり、2001年にはバブルが弾け、その後不況がもたらされました。

当時はシリコンバレーを中心にITベンチャーの設立ブームが起き、米連邦準備銀行の低金利政策も投資資金の調達も非常に容易だったことが背景にありました。

テクノロジー関連株式といえばナスダック(NASDAQ)株式市場ですが、当時のナスダックはわずか5年間でおよそ5倍の5048.62ポイント(2000年3月10日)まで上昇し、その後わずか2年半の間に元の1000ポイント近くまで下落しました。

2020年、テクノロジー関連企業の株価の過熱感は高まる

ナスダックはITバブル後、アメリカ経済の成長拡大とともに再び上昇を続けており、テクノロジー関連企業の株価の過熱感は高まりつつあります。ただし、これは現実社会におけるテクノロジー企業のプレゼンスの拡大を伴っており、バブルと呼ぶべきかは非常に難しいところです。今回は違う(This time is different)なのでしょうか。

2020年、新型コロナウィルスの流行を受けて株式市場が急落(コロナショック)すると、ナスダックも下落しましたが、経済活動の収縮の中でも唯一動き続ける産業としてテクノロジー関連企業は投資家から注目を浴び、多額の投資資金が株式市場に流入しました。結果としてナスダックはいち早く見事なまでのV字回復を演出し、そして再び史上最高値へとひた走ります。

NASDAQは史上最高値を更新

経済活動が完全に再開しているわけでもないのに、株式市場が好調な背景には、米連邦準備銀行による利下げや量的緩和などの巨額のマネーの供給がありますが、それでも違和感がある、実体経済とは乖離があると指摘する声はあります。ただ、他の産業の見通しが不透明な中で、相対的にテクノロジー産業が選好されることは不自然ではありません。問題は経済活動レベルが低下する企業を人々が避けるようになり、テクノロジー企業一択のような状態になったとき、果たして市場は見誤ってバブルを引き起こしてしまうのかどうか、というところです。

米テクノロジーETFへも資金流入が継続

アメリカの巨大テック企業は時価総額ベースでも極めて大きな存在となり、今ではアメリカの株式市場を牽引する存在となっています。テックが堅調ならアメリカも堅調に見える、という感じです。

もちろん個々の企業への人気も集まっていますが、昨今はETF(上場投資信託)を通じても資金流入が見られています。代表的なのがQQQというティッカー(銘柄指標)で表されるETFです。ナスダック指数以上にテクノロジー分野に特化しているので、ETF価格がうなぎ登りです。

2000年のITバブルと似ているところはどこか

過熱している雰囲気で言えば既に2000年のITバブルに近い気もしますが、もう少し具体化するとしたらどうでしょうか。

似ているところは、

「ITがもたらす明るい未来への期待」

が伴っているという点です。今回の場合、AI(人工知能)やVR(仮想現実)技術などもそうですが、5Gのような社会インフラの部分を変革する余地があり、その中核を担う企業群にはどうしても世界が注目をしています。巨大な利益製造機に乗り遅れまいと、次々と投資家が現れる、そんな雰囲気すら感じます。

2000年のITバブルと異なるところはどこか

今回のテクノロジー企業への注目の高まりをもう少し詳しく見てみると、大型テック企業が牽引していることに気がつきます。

つまり、ITベンチャーを中心に盛り上がっているわけではないのです。

もちろん、ITベンチャーへの投資資金の流入もあるにはあるでしょうが、より体力のある企業がさらに体力をつけている、そんな印象がありますね。ベンチャー投資の場合、極端なリスクマネーですから、資金引き揚げも非常に早いことが想定されますが、大企業に対して投資家が求めるのは長期的な株式とその配当の安定ですから、すぐに市況が反転するとは限らないとは言えそうです。

今回は「ITバブル崩壊」をもたらすか

過熱しすぎた株式市場はいつかは調整されます。しかし、今回の場合はすぐに足元がぐらつくような企業群に注目が集まっているわけではないので、バブルの元凶が砂上の楼閣とは必ずしも言い切れません。ただし、本来他の業界にも満遍なく行き渡るべき投資資金が一箇所に集中する状態が続くようであれば、それ自体は警戒すべきことだと思われます。

そして、この過熱感の雰囲気がさらに熱狂的なものに変わるとすれば、そのときは真のバブル到来であり、そしてその先はバブル崩壊でしかないのでしょう。歴史はそれを示しています。