証券会社が倒産した場合以外にも、より手数料の低い証券会社への乗り換えを考えたいときに行われる、「証券移管」というプロセスについてざっくりとまとめてみたいと思います。
他社に乗り換える際に一度売却する必要はない
運用口座を複数の会社に持つようなケースでは、口座の分散は分散でメリットがありますが、一方でひとまとめにしたい、あるいは片方の口座の閉鎖を考える場合もあるでしょう。このような場合、通常は一度保有証券を売却して現金化し、その資金を他社に送金してまた買い戻す、という処理を考える人が多いかと思います。しかし、現実には、現金化することなく、「証券ごと移管する」という選択肢も存在することは見落とされがちです。
証券ごと移管するということがイメージしづらいと言われるかもしれませんが、A社の株式はA社の株式として、B債券はB債券としてそのまま別の口座に移すことが可能という意味です。したがって、一度現金化するという作業が入りません。
証券移管のメリット
現金化せずに、証券ごと移管することのメリットはどこにあるでしょうか。一番は移管にかかるコスト低減が見込めることです。
詳しい移管の手数料は会社毎に確認する必要がありますが、一般にはほとんどありません。それに対して売却や購入に対しては手数料がかかることが多いので、何重にもコストがかかってしまう可能性があります。
また、移管の場合は移管であって売却ではないので、仮に値上がり益があったとしても利益確定させる必要はありませんから、税務申告をするタイミングでなければ移管の方がメリットになる可能性はあります。(もちろん、結局はいつかは税金を払うのでこれをもってして節税になるわけではありません。)
証券移管のデメリット
一方で証券移管には時間がかかる可能性があります。証券移管の受け入れ先は今後の取引が期待できるのでいいのですが、証券移管元の会社からの協力は得られづらい可能性が高いことがあるでしょう。
証券移管には両サイドの担当者の協力が欠かせないのです。証券会社としては移管依頼を積極的には受けたくありませんし、手数料のかかる売却をまずは勧めることもあり得ます。
本当は移管ができるにも関わらず、逆のインセンティブが働く、あるいは担当者が実務に明るくなく移管ができないと答えてしまうケースすらあり、証券移管をしたいと思ってから完了まで時間がかかることが想定されます。急いでいる場合は一度現金化してしまった方が早いかもしれません。
海外証券業者等へも移管することは可能
国内の他社口座への移管については手続きが整っているケースが多いのに対し、海外の業者に対してできるかは確認が必要ですが、基本的には可能です。
制約になるのは、移管先での証券保管機関ですから、移管先の口座で同じ証券が購入できるのであれば、移管自体も可能であることがほとんどです。証券保管機関というのは、実は口座利用者が普段目にすることはありません。
イメージ的には口座の中の口座といった感じで、●●証券会社に口座を保有していて、日本株と米株を買ったとしたら、日本株は●●証券会社と提携している△△という証券保管機関に預けられ、米株は同じく●●証券会社と提携している◽︎◽︎という証券保管機関に預けられている、という具合です。
なので、××証券会社が日本株を預けるのが△△という証券保管機関であれば一番楽ですし、△△と▼▼という証券保管機関との間で移管の手続きが整っていれば、それもスムーズに行われることになります。
証券移管の方法は難しくないが、できればプロの手を借りたい
証券保管機関の存在が一般には知られていないことに加え、前述した移管元、移管先のインセンティブにも関わるので、可能であれば移管の経験のあるプロの手を借りるのがスムーズに移管を進めるコツになってきます。もちろん、移管元、移管先はそれぞれクライアントからの依頼ですから、真摯に対応してもらえるケースの方が多いとは思いますが。
証券移管のプロであれば、移管時にどのような書類を用意すればいいのか、あるいはトラブルが起きたときに誰にどういう情報を開示してもらうことで解決できるのかを把握していますので、クライアントがただ「早く移管してくれ」と言い続けるよりはずっと早く、かつ的確に処理が進むことが予想できます。
証券移管時は税務処理に注意が必要
証券の移管を行う場合、移管することばかりに気がいってしまい、税務処理にまで注意が向けられない可能性がありますが、税務上どのような考慮が必要かは事前に確認しておくことが望ましいです。
国内業者同士の場合、前述のとおり、売却による利益確定が起こりませんので、源泉徴収をされることもありませんし、したがって税務申告は不要です。
一方、海外の業者に移管する場合には、場合によっては売却を行なっていなくても税務申告が必要になります。あるいは今後は国内源泉徴収が行われなくなるので、自らレポートを取得して毎年税務申告をすることが必要になることもあり得るでしょう。また、海外の財産状況を報告する「国外財産調書」など近年導入された制度を遵守する必要も出てくるかもしれません。必要に応じて税理士などに確認をすると良いでしょう。