ポートフォリオに金(ゴールド)を入れることの意味

金価格が上昇している背景

金価格は経済危機時に上昇しやすいというのがベースとしてあります。したがって、リーマンショック時には上昇していましたし、その後は再び下落していました。

しかし、景気サイクルの後期が意識されるにつれ、じわじわと上昇し、コロナショックにおいても上昇しました。要するに、金は安全資産として認識されているのです。

ただ、それだけだと説明としては不十分なので、金価格が上昇している背景をもう少し具体的に挙げてみます。

① 債券利回りの低下

金は安全資産ですが、債券も(株式に比べて)安全資産だと認識されています。リスク回避であれば、投資対象として債券でもいいんじゃないかというのは理屈として正しいです。ただ、債券が買われ続けると価格が上昇し、そして債券利回りは低下します。金利がつくから良い債券なのに、利回りが極限まで下がったら、もともと金利のつかない金は相対的に好まれます。デフォルトするリスクは金にはないからですね。

② 株価の下落

景気後退局面では株価は下落することが一般的です。下がっていく株式を保有することは投資家としてはあまり魅力を感じませんから、チキンレースのごとく投資家は退出していきます。ある程度は現金にシフトしますが、一部は必ず金に逃避してきます。そういう逃避への期待感から金価格は上昇しやすくなるのです。

③ 中央銀行による金保有拡大

各国の中央銀行は法定通貨を制度化していますが、それを支えるのは政府に対する信頼でしかありません。この信頼を補完するためには、国の通貨が過剰に弱くならないように、外貨準備を十分に確保したり、あるいは金を保有することで十分に対応できる余力を確保します。かつてのように金本位制が敷かれているわけではないのですが、安全と言われる国債が暴落することがあってはならないし、ハイパーインフレが起きて通貨暴落が起きてもいけないのです。量的緩和などを通じて市中に出回る通貨を増やしているなかで、より金保有を増やす中央銀行が増えています。

④ 地政学リスクの意識

有事の円買い、有事のドル買い、などと言われることがありますが、戦争などの地政学リスクが意識されたとき、金は買われやすくなります。最近だと米中貿易摩擦などによって、国際金融市場に緊張が走ると、金価格が上昇するということは珍しくなくなりました。ここでも安全資産としての金が意識されています。

富裕層がポートフォリオに金を含めるのはなぜなのか

資産家といえば、自宅に金地金(ゴールドバー)が置いてある、と考えられています。これは都市伝説でもなんでもなくて、実際にあることの方が多いです。なぜなのでしょう。

一つには、貴金属に対する信頼が強いこと、がシンプルに挙げられると思います。十分な資産がある場合、宝石や時計と同様、金地金(ゴールドバー)が財の象徴のように感じるからです。王族はゴールドを纏っていることが多いのと同じですね。

ただ、資産家が金を財の象徴に感じるのは、ただの信仰ではなく、実利に根ざした習慣とでもいうべきものです。かつて、各国の通貨の価値を支えるために金本位制が敷かれていたことを歴史に学んだ人も多いでしょう。価値の裏付けとして金は過去に遡って、根元であったのです。

富裕層にとっては、金の保有目的は資産保全であって、価値がゼロになることがなく、そしてインフレに負けることもない、そのことが最も強い保有動機であると言えるでしょう。

ただ、今の若い世代にとっては金というのは一つの投資対象でしかない可能性があります。実物のゴールドバーを保有しなくても金に投資できるようになったからですね。

多くの人が金投資を肯定しづらいのはなぜなのか

投資というのはキャピタルゲインあるいはインカムリターンという形でリターンを生み出します。金投資の場合、インカムリターンというのが一切存在しません。なので、投資対象と認識した場合、価格の上昇を利益として取り込むことができるか、しか考えないことになります。だからこそ、既に金価格が十分上昇している局面(右肩上がりに価格が上昇した局面)ではアンカリング効果が強く働き、わざわざ金投資をする意味について、肯定しづらい状況ができあがります。

アンカリング効果とは、価値判断基準を設定するための情報が十分にない状況で、最初に着目した情報や数値のために判断基準にバイアスがかかってしまう現象のこと。

ポートフォリオにおける金の保有比率はどれくらいが適切か

これまで述べたとおり、金で稼ごう、という意識は相対的に薄いと考えられるでしょう。ただ、現実には資産が増えるにつれて、いくばくかは保有していることが自然だ、とは考えられるでしょうか。それは資産が増えるほど、インフレ圧力に晒されやすいからでもありますね。

では、金の保有比率はどれくらいがいいのでしょう。一つの例としては、ハリーブラウンという人が提唱したパーマネントポートフォリオという概念があります。短めの洋書なので読んでみるのもいいかもしれません。パーマネントポートフォリオというのは、

株式、債券、現金、金をそれぞれ25%ずつ均等に保有し続ける

というものです。この割合をパーマネント=永久に、維持すればどのような景気局面も資産を減らすことなく乗り越えることができる、というものです。

え?25%も?という感想の人がどちらかといえば多いのではないかと思います。やや古い本ですから、今のゼロ金利状態とは異なります。その時代に25%だったことを思うと、現代の投資家はよほど「利回り」を求めていることの証左でしょうか。

しかし、目的がインフレヘッジなのであれば、当然これくらいなければポートフォリオは守れない、というのは確かなことのようには思います。

金に高値掴みという考え方はあるか

とはいえ、金価格が上昇するなか、高値掴みになるのでは、と懸念する投資家は多いです。

金にとって難しいのは、インカムがないので理論価格のようなものを想定しづらい、というポイントです。供給はある程度絞られているにしても、需要次第で価格は無限大にもなるし、誰もが手放せば底なしに下がっていきそうな気がします。

既に十分金価格は上昇していて、東京金価格は史上最高値更新をしていますが、米ドル建てで見てみるのであれば、目安の一つは2011年につけた過去最高値(1オンス1917ドル)でした。しかし、この過去最高値も2020年7月には更新しており、金の先物ではすでに1オンス2,000ドルを超える瞬間すらありました。

米大手投資銀行ゴールドマンサックスはこの金の上昇の背景に米ドルの基軸通貨としての地位がリスクにさらされていることを挙げ、この先1年の金価格の見通しを1オンス2,300ドルに引き上げました。

米ゴールドマン、金価格の12ヶ月見通しを2300ドルに引き上げ – ロイター通信

金融市場の発展とともに、金現物(ゴールドバー)ではなく、金ETFという形でも保有はできるので、自分の資産が増えるにつれて、金積立などでじわじわと増やしていく、というのが現実的で良いのかもしれません。

関連ブログ:投資対象としての貴金属の比較(金、プラチナ、パラジウム)