コロナショックによるプライベート・エクイティへの影響

COVID-19というパンデミックにより経済及び社会は激震に揺れましたが、果たしてこの先の方向性を見極める上で、何を見ていけば良いのでしょうか。今回は、コロナショックによるプライベート・エクイティへの影響から考えてみます。

パンデミックという事象への考察

COVID-19という世界的パンデミックは、人命と、人々の生活に対して二重の負荷をかけていることに加え、市民の不安を煽り、経済的不平等への懸念を湧き上がらせ、あるいは地政学的な緊張感をもたらし、様々な影響を与えています。つまり、パンデミックを単なる疫学的事象というよりはむしろ、深刻な混乱の複合体としてみることができます。

将来に対する不確実性は極めて大きく、かつ増大しつつありますが、プライベート・エクイティ・ファンドを運営する企業は、①既存のポートフォリオ企業の中で、悪影響を受けた部分を救済する方法と、②新たなトレンドが支えるであろう企業への新規投資の両方を模索しています。

株式市場や債券市場はこれから先も乱高下が続くかもしれませんが、主要な投資家もまた、ポストパンデミックの世界で持続的な成功を収めるであろう企業への期待を高めています。

これまでの景気後退局面、人口減少局面と異なるのは、パンデミックは、ビジネスモデル、消費者行動、国や地域の政策、事業に至るまで、多くの二次的、かつ長期的な影響を与えることになるだろうとされています。

特に、長期的な影響に関しては不透明なところが大きいでしょう。それゆえ、移行する事業価値についての予測は、極めて投機的とならざるを得ません。世界中の中央銀行がリーマンショックをはるかに超える資金供給を行い、株式市場は不可解な回復を遂げましたが、それは逆に、企業やセクターの本来の健全性を測ることを困難にしています。

プライベート・エクイティ・ファンド経営の舵取り

先述した不確実性のなかで、プライベート・エクイティ・ファンドの経営スタンスはいくつかに分かれます。一つは、ポートフォリオ企業の一部を将来の成長に向けて転換する方法、もう一つは、コスト削減で嵐を凌ぐことに集中する方法です。また、十分に準備をした上で、いくつかの事業を眠りにつかせることも必要です。

プライベート・エクイティの運用マネージャーにとっても試練です。多岐にわたる企業ポートフォリオを安全に運用することが業界全体のパフォーマンスに影響を与えます。企業経営者からすれば、厳しい選択を迫られることになるわけで、短期的な目線よりは、長期的に生き残っていけるかどうか、という判断軸になっていくことでしょう。

プライベート・エクイティ・ファンドの投資先

PEファンドが投資をするセクターで言えば、不動産が最も大きく、次にエネルギー関係やビジネスサービス、ソフトウェアなどが続きます。逆に少ないのは、銀行や通信、保険やフィンテックなどです。

ロックダウン政策が取られたことや、中央銀行の対応、原油価格の下落、金利の低下、貿易の分断などは、各国経済に構造的な違いを生んでいますが、変動が幅広いため、要因分解を行い、地域やセクターに対する再評価も頻繁に行われやすくなっています。

パンデミック後の方向性は

コロナショックから半年が経過しましたが、L字だのU字だのV字だのと、回復に向かう道筋ははっきりとしていません。過去にあった大規模な経済危機でも、回復に向かったことは事実であり、その過程で、いくつかの産業は構造的な変化を伴いました。

リーマンショックの際も、一部の産業では急速な回復が見られたのに対し、一部の産業では10年近くかかった例もあり、そして以前の水準を保てなかった産業(不動産、旅行等)もあります。

パンデミックを通じて築かれたトレンドは、ロータッチからゼロタッチのオペレーションモデルの必要性、リアルタイムの記録と追跡が例として挙げられます。急場で生まれたニーズとしては、政府の規制や政策の変化、制裁への適応、生活必需品の嗜好の変化などです。

ビジネスモデルに関して言えば、フィンテックやヘルスケアなどのセクターは従来通りの方向性が強化される面があるのに対し、不動産や旅行、物流などのセクターは抜本的に変えていかなければならない可能性にも直面しています。経営者側も、豊富な資金アクセスがあるからといって、バランスシートの健全性や持続的な成功を後回しにしてはいけません。

プライベート・エクイティへの影響

ワクチンが出来た後の世界に向けて、どのような企業に投資をしていけば良いのか、プライベート・エクイティ・ファンドは頭を抱えています。また、その時間軸も、自律走行車なども未来テクノロジーへとより急速に向かう可能性が高まっていたり、あるいは、別の要因としては、人種差別や多様性の課題に取り組むことを同時に求められていたりすることです。

パンデミックとの戦いが長期戦である以上、成功する企業を見つけ出すという目標はやや高望みと言わざるを得ず、いかにビジネスモデルを見直し、生き残る企業を支援できるか、が喫緊の課題でしょう。また、ゾンビ企業が増えることも想定内であり、バリュエーションが歪んだ世界をしばらくは突き進まなければなりません。

つまるところ、投資家としてはボラティリティの上昇や格下げ、デフォルトの確率が相応に高いことを織り込まなければなりませんが、投資をしっかりと選別できれば、着実にリターンを上げることはできるでしょう。

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