米企業にとってのChapter 11(チャプターイレブン)の意味

チャプターイレブンとは

通称である”Chapter 11(チャプターイレブン)”というのは、米連邦破産法第11章そのものと、それに基づく倒産会社の再生処理手続のことを指します。

日本でも倒産、破産と一口にいっても様々な形が想定されますが、米国においては、Chapter 11は”再建型”の倒産法制として知られています。

つまり、会社を畳んで清算してしまおう、というものではなく、現状のままでは倒産するしかないものの、法律に則って、経営を継続するための方法を模索する(再建する)、そして債権者にも正式にその検討テーブルにのってもらうというものです。

企業の場合、無理な事業拡大、経営者の交代、経済環境の悪化、不適切会計など、様々な理由で倒産に陥ります。

倒産会社の処理としては、米国連邦倒産法には、Chapter 11(再建)の他にも、Chapter 7(清算)、Chapter 13(定時的収入のある個人の債務の整理)などがありますが、実際には、Chapter 7やChapter 13は非事業者である個人の破産が多く該当し、事業者である企業の場合はChapter 11の適用が多くなる傾向があります。

Chapter 11と経営破綻のイメージの違い

先に少し述べたように、一般には経営破綻と聞くと、会社を潰してなくしてしまう(=会社の消滅)ことをイメージしますが、現実には経営再建=再生という手段を取ることが多いです。

もちろん法的に倒産することに変わりはないのですが、米国の場合、チャプターイレブンに対する負のイメージは比較的薄く、また経営状態が最悪に陥り、手がつけられない状態になる前の比較的早い段階で申請されることが多いという実態があります。

実際、Chapter 11の申請にあたっては債務超過の恐れや資金繰り困難といった事情は要件とされていません。

Chapter 11の適用を受けた米企業と363条セール

2009年6月、米国最大の自動車メーカーであるゼネラル・モーターズ(GM)が経営破綻した際にも適用されたのがChapter 11です。

債務超過に陥ったGMは米財務省から60日で再建案をまとめるように求められ、デット・エクイティ・スワップをもとにした債務削減策を提案しましたが、社債保有者の賛同は得られず、Chapter 11の申請に至りました。その中で目指されたのは、363条セールによる健全な財務状態での再スタートでした。

連邦倒産法第363条による事業譲渡(通称、363条セール)は再建計画において実施される売却に比べ、迅速に実行されます。つまり、資産の劣化が起こる前に、裁判所の許可を得て速やかに事業譲渡が可能です。特に、収益性があり再建すべき事業を素早く切り離し、売却することで資産価値を維持することに繋がります。

ちなみに、破綻処理は国別の法制に基づいて行われるので、グローバルに活動する米企業の場合、米企業だからといって、全てが米連邦破産法に基づいて処理されるわけではないことには注意が必要です。GMはその後経営を持ち直し、2010年11月にはニューヨーク証券取引所に再上場を果たし、今に至ります。

各ステークホルダーにとってのチャプターイレブン

債権者、株式投資家にとって、破産処理であるチャプターイレブンはメリットがないかというとそうでもありません。一つには、日本でいう最終手段的な破産と違って、チャプターイレブンの場合、早期の課題共有、問題解決に繋がることが挙げられます。チャプターイレブンの申請には前提となる要件がありませんから、取り返しのつかない状態になることを未然に防ぐことができます。

一方、チャプターイレブンは経営者にとってどのようなペナルティがあるのでしょう。

チャプターイレブンの適用を受けたからといって現経営陣が退陣しなければならないということはありません。また、基本的には通常業務を継続しながらの手続きになるので、従業員が即座に解雇されるわけでもありません。

要約すると、チャプターイレブン自体は、投資家にとっては小さくない痛み(それでも清算よりは小さい)を伴うものの、経営者や従業員にとってはダメージが少なくて済む傾向があるということです。

それでもチャプターイレブンは申請が少ない方がいい

ここまで見てくると、チャプターイレブンが比較的良心的な法制度であることは理解していただけたのではないでしょうか。

とはいえ、破産手続に違いはありませんから、経営が順調であれば適用されることはありません。

チャプターイレブンの申請は経営の悪化と必ず呼応していますので、申請しなくてよいに越したことはないのです。しかし、本当に必要なときは傷が深まる前に再建策を模索する、このことがあらゆるステークホルダーにとって最善の道となり得ることを心の片隅に置いておく必要があります。

破綻処理は時間も労力もかかるので投資家としては是非とも回避したいことですけどね。

2020年の新型コロナウィルス流行を受けて、経営不振が続いていた企業にとってはとどめの一撃となることでしょう。チャプターイレブンという言葉はニュースで度々聞くことになるとは思いますが、しばしば「日本の民事再生法に相当」という括弧書きがつくように、”破産”という言葉からイメージするものと少し違うということが理解できると良いですね。

関連ブログ:ディストレストファンドが待つ、本当の最悪期は訪れるか