LVMH(ルイ・ヴィトン)の経営戦略と株価

ラグジュアリーコングロマリットとしてのLVMH

そもそもなのですが、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)のことをブランドバックのブランドである「ルイ・ヴィトン」の会社だと認識している人は多いのではないでしょうか。

実はLVMHはもともとは富裕層向けの不動産事業に端緒があり、現在のラグジュアリーブランドとしてのLVMHの根本が形成されたのは1987年でした。その名の示す通り、モエ・ヘネシーとルイ・ヴィトンによる共同経営の開始です。

この時点で既に複数のブランドを持ち始めたわけですが、一番最初の買収は、少し遡って、1984年のクリスチャン・ディオール買収であり、共同経営開始前には、いわゆる“ポートフォリオ経営”なるものの一端を垣間見ることができ、一大ターニングポイントであったことが分かります。そうです、ディオールはLVMHなのです。

その後も、FENDI、LOEVE、Berlutiなど、著名なブランドが傘下に加わり、今のLVMHは既に70を超えるブランドを抱える巨大コングロマリットとしてポートフォリオ経営を実践しています。

もちろん、キープランドであるルイ・ヴィトンはLVMHの根幹であることに変わりがありませんが、LVMH全体から見れば、ルイ・ヴィトンとはその一部でしかない、という風に見ることができます。

ラグジュアリー業界の三巨頭

ポートフォリオ経営という名のグループ戦略に転換を決定したのはLVMHだけではありません。同時期、他のブランドもグループを形成し始め、今のリシュモンとケリングを合わせ、三大コングロマリットと呼ばれるまでになりました。いわば、ラグジュアリー業界の三巨頭です。

複数のブランドが、巨大グループの傘下にいるという構図はそれぞれのブランドを買い求める消費者の目から見れば不思議なものに感じるでしょうし、逆に言えば普段はそれを意識することはあまりありません。つまり、消費者の目には、グループとしての名前ではなく、各ブランドの名前で商品が認識されているわけで、これはラグジュアリー業界独特であると言えるでしょう。

次なるLVMHのターゲットはティファニー

2019年10月、フランスの高級ブランド「ルイ・ヴィトン」を擁するLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループが、アメリカの高級宝飾ブランド「ティファニー」を145億ドル(約1兆6千億円)で買収する案を持ちかけているというニュースが駆け巡りましたね。

「ルイ・ヴィトン」のLVMHがティファニーに買収案、145億ドル – Bloomberg

このニュースを受けて、買収対象候補のティファニーの株価は28日、30%を超える急上昇をしました。1株あたり120ドル程度の提示があったと見られ、ニュース発表直前の株価に対しおよそ22%のプレミアムが乗っている計算になります。この株価上昇を見る限り、市場参加者のリアクションとしては「あり得べき買収」と捉えたようです。

その後、買収価格を1株あたり135ドルとして、11月25日に買収合意に至ったことが正式発表されました。規制当局や株主の承認を経て、2020年半ばまでに手続きを完了する予定でした。

LVMH、ティファニー買収で合意 1.7億円 – 日本経済新聞

しかし、新型コロナウィルスの広がりによって、最大の市場であるアメリカの情勢悪化が懸念され、LVMH経営陣が2020年6月に話し合ったほか、同じく6月のティファニーの株主総会でも、LVMH傘下入りに関する変更事項は発表されておらず、その後ティファニーは8月24日に失効するはずだった合併完了期限を3ヶ月延長し、11月24日としました。しかし、LVMH側はその期限について争う権利があると監督当局に届け出ており、先行きは不透明となっています。

ティファニーと言えば、日本では比較的親しみやすいブランドとしてティファニーが定着したかに見えますが、実はティファニー自体は経営の転換点に差し掛かっていると最近までは言われていました。

独立系の地位を維持してきたティファニーにとっては、今回のLVMHの提案を受けるかは悩んだのでしょうが、アレッサンドロ・ボリオーロ新CEOの下で進めてきた改革にとって大きな推進力となりそうです。

LVMHグループのこれまでの買収を見る限り、「歴史のある良いブランドは良いブランドとして残す」ということは意識しているので、買収されるからといってティファニーというブランドが消えてなくなるわけでは恐らくありません。

LVMHが進める中国、そして米国市場での事業拡大

LVMHの株式はフランス・パリのユーロネクストという市場に上場しています。

日本でいうところの日経平均株価はフランスではCACにあたりますが、上位40銘柄で構成されるCAC 40にLVMHグループが選ばれています。CAC 40を持ち上げたのはLVMHであるといっても過言ではありません。

LVMHグループの大株主である、会長兼最高経営責任者を務めるベルナール・アルノーは今では世界長者番付(ブルームバーグ)で第2位としても有名ですね。

とりわけ、ここ数年はLVMHグループは、中国市場での成功に注力してきました。米中貿易摩擦の中でも、成長を続けてきた中国市場の恩恵は大きいことでしょう。

一方で、2019年10月17日、LVMHは米テキサスにルイ・ヴィトンの新工房をオープンさせており、トランプ大統領も落成式に出席したのも印象的でした。

実はテキサスは今トヨタの北米本社などの日本企業も次々と移転し、活況が続いている場所です。シリコンバレーに代わって、アメリカのハイテク産業を支える街として大きく成長しようとしています。

ティファニー買収の動きもまた、LVMHとしての米国での戦略の一つであることは間違いないでしょう。

ポートフォリオ経営の何がいいのか

グループ経営にあたっては「ポートフォリオとしてどういうブランドを保有しているか、またそれぞれのブランドをどのように扱ったか」がカギになります。

LVMHグループの場合、長く愛されるブランドを保有し続けることで、一方で時代の変化を受ける各ブランドの業績の波を吸収し、再生まで持っていくということを行なっている印象です。そういう意味では、LVMH自体はもはやバッグを売っている会社というよりは潤沢な資本力を通じて投資を行う会社というイメージで捉えた方がいいのかもしれませんね。

こうしたポートフォリオ経営に近いものを戦略をして掲げる企業は他にもあります。いわゆるホールディングスの進化形ですね。最近のソフトバンクグループもその一例でしょうか。ソフトバンクビジョンファンドなども随分とニュースになりましたが、かつてのように携帯電話事業をやっている会社だと思ってしまうと、全体像を見失うことになりかねません。携帯電話事業をやっているのは子会社のソフトバンクであってソフトバンクグループそのものではありません。

こういったコングロマリット企業の株式は、いわゆる一企業の株式と全く同じように見ることは適切ではありません。企業グループとして、傘下にどういった事業部門、ブランドを持つことを意図しているか、をしっかり見ておきたいものです。