プライベートバンクにおける相続対策の留意点

プライベートバンカーといえば、三世代にわたってクライアントに仕える、とまで言われることがありますが、そもそもプライベートバンクと相続対策は相性が良いのか、という点を今回は検証してみます。

相続対策にならないプライベートバンクサービス

– 銀行という機能

悲しいかな、プライベートバンクという言葉の指す、銀行という機能は残念ながら相続対策としては最も弱いものです。海外の場合、銀行口座には共同名義が存在しますが、日本の場合は、そういった口座もないため、プライベートバンク口座は通常の銀行口座と何も変わりません。

日本国内のプライベートバンクであれば、預託財産として相続の対象になりますし、海外のプライベートバンクであれば、口座開設国の法律に則り、多くの場合は、英米法のプロベート(検認裁判)を経て、被相続人のもとにやってきます。このプロベートというプロセスはお金がかかりますし、決して簡単なものではありません。

– 資産運用という機能

ついでに言えば、プライベートバンクの主たる利用目的である、資産運用という機能も残念ながら相続対策にはなりません。プライベートバンク口座内で行う資産運用は対象が金融資産ですから、預金と大きな違いはありません。

もちろん、資産を増やすことは相続資産を増やすということでもありますが、その資産に対しては別途何らかの相続対策を施す方が一般的でしょう。

ひと昔であれば、海外の隠し口座を作ることはある種、相続対策のように映っていたかもしれません。しかし、スイスを始めとする伝統的プライベートバンクの発祥地でもOECDによる共通報告基準(CRS)の採用により、各国の税務当局に対しては、“見える資産”に変わってしまっています。

今でもスイスに足を運び、プライベートバンク口座を開くことができることを誇りに思う人がいますが、それはそれで本人にとっては非常に価値のある行為だと思いますが、その動機が資産隠しであったり、脱税であったりだとすれば、何の意味もない、ということになります。

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相続対策になるプライベートバンクサービス

– 生命保険

一番手頃なのは生命保険でしょう。資産家の場合、どんなに頑張って節税しても相続税は大きくなります。税金を減らす手当をした後、残される道は税金を納めるための資金を堂々と残すことです。海外であれば死亡保険金の上限も高く設定されているため、移住した際などは利用を検討してみるのもよいでしょう。死亡保険金は現金で支払われますから、納税資金として準備するのに最適です。

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– 資産管理会社

相続税を少なくするためによく提案されるのは資産管理会社の設立です。相続税に限らず節税には活用できますから、資産が十分にできれば資産管理会社を設立する、というのは一般的です。この際、国内の資産管理会社がいいのか、国外の資産管理会社がいいのか、はご自身とご家族の将来を考えながら計画するのがよいでしょう。

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– 財団や信託

ご自身の遺産について、遺言同様、死後の用途を指定する方法として、財団や信託は有効です。財団や信託に入れた資産はご自身のものではなくなるので、相続に際して相続人同士のトラブルを防ぐことにもなります。また、単に寄付するだけでなく、財団として長期的に社会に貢献できる道も資産家としての一つの生きた証になります。日本の場合も家族信託制度が徐々に浸透しつつありますが、海外の信託の方が制度としては確立しており、信託会社もたくさんあります。

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– プライベートバンカーという存在そのもの

相続対策には税金の問題、法的な問題が一番に思いつくと思いますが、実際最も難しいのは残される側(相続利害関係者)への配慮です。死人に口なしとはよく言ったもので、残された側は好きなことを言います。遺言書も大事ですが、何より相続の前後で、家族同士が争わなくてすむよう、プライベートバンカーが間をとりもつことも少なくはありません。プライベートバンカーは顧客のプライベートを最もよく把握する、いわば執事のような役割をしていることがあるからです。こればっかりはAIやロボットには代替できません。

プライベートバンクサービスの変更は有効

ここまで見てきたとおり、プライベートバンクサービスにも相続対策になるものと相続対策にならないものがあります。

もちろんワンストップサービスを提供してくれることもありますが、プライベートバンクに対して“おんぶに抱っこ”状態になることは必ずしも最良の結果をもたらすとは限りません。ましてワンストップサービスすらないのであれば、ご自身に合ったサービスを組み合わせて利用することがいつかは必要になります。

「相続対策」が頭をよぎったのであれば、担当者とのリレーションにこだわりすぎず、プライベートバンクサービスの変更を考えた方が良いと思います。上手くできるのであれば、前任のプライベートバンカーから後任のプライベートバンカーへしっかり引き継ぎができるか、あるいは協業していくことが望ましいのでしょうね。