プライベートバンカーとの出会い
IPOやM&Aで多額の資産ができたり、ニュースで取り上げられて有名になるとどこからともなくプライベートバンカーが現れます。あるいは知り合いとの会食でたまたま投資環境の話をしていたら、紹介された、というケースもあるでしょう。
いずれの場合も、プライベートバンカーに会いにいったというよりも、どちらかと言えば受動的な出会いになることの方が多いでしょう。
結果として、その後何となく乗せられて口座開設に向かうことになったとしても、何を期待していたのかも分からなくなり、また期待していたほどの成果を得られずに終わるケースも多いようです。
今回は、プライベートバンカーを見極めるにあたって、やるべきことをまとめてみたいと思います。当たり前といえば当たり前なことばかりですが、これをやるかやらないかでその後の運命が決まると言っても過言ではないでしょう。
口座開設までのやりとりでの見極め
1 身分やライセンスの確認
日本国内、国外を問わず、金融業界の人間はどのような金融ライセンス下で活動しているため、クライアントの側もライセンス体系について知っておくことは重要です。
ライセンスの中には、有価証券の売買ができるもの、有価証券のアドバイスができるもの、投資一任を受けることができるもの、など種類がありますので、単にライセンスを持っているかどうかだけでなく、どのような活動をすることが認められているのかまで確認する必要があります。
プライベートバンク周りでは、単に金融業界に詳しいだけで、実際はライセンスを持たない、いわゆるブローカーも存在し、身分をごまかしながらクライアントにアプローチをします。しかし、ひとたびクライアントがプライベートバンクに興味を持てば、その後はプライベートバンカーに引き渡し、自らは次のクライアント探しを始めます。
このブローカーという仕事は非常にグレーであり、本来は金融ライセンスをもたない人間が金融商品の案内をしてはいけないため、活動自体が違法である場合もあり、そのグレーゾーンを進むことを選んでいる時点でやはり関わるべきでない、と言えるでしょう。そのためには、ライセンスを確認し、提示されなかったとすれば、そういう人物なのだ、という判断を下すことになります。
2 相談
クライアントもプライベートバンカーも初めましてで全てのことが分かるわけではありません。プライベートバンクを利用する場合は、億単位の資金を預けることになるわけなので、お互いに信頼関係を築くことにまずは力を注ぐべきでしょう。
一つはプライベートバンカーが所属する金融機関のこと、そしてプライベートバンカー自身のことです。実際に担当になるプライベートバンカー自身のことに関してはより深く理解する必要があるでしょう。どんなに短くても1年、長ければ一生の付き合いになるわけですから。
人となり、これまでのキャリア、考え方、金融市場に対する見方など、幅広くチェックすることが大切です。多少のプライベートな質問にも遠慮なく答えてくれるかどうか、不自然に緊張していないかどうか、また、ドル円相場の予想など、解のない問いに対してどのように答えるか、といったことも大切です。
もう一つ大事なことは、クライアント本人のことをしっかり伝えることです。初めて会ったプライベートバンカーには、、ということであれば時間をかけることも選択肢です。
いずれにしても、長く付き合っていくことを想定するからこそ、入り口での誤解が少ないことが重要です。プライベートバンカーからの提案も、必ずクライアントのライフプランや理念に沿ったものになりますから、家族計画や事業計画、あるいは退職後のプランなど、かっちりしたものでなくてもいいので話しておきましょう。
資産運用とは直接関係ない話であってもクライアント自身の将来リスクに対する見方が同じように反映されていることもあるからです。
逆に、この相談のプロセスが少しでも上手くいかない、と感じたら、恐らくプライベートバンカーとの相性が悪いのでしょう。NDA(秘密保持契約)を結ばなければ話したくない、一々話が噛み合わない、価値観が合わないと感じる、など違和感があれば、先に進むことは躊躇すべきです。
3 運用方針(提案書)の確認
美味しい料理や趣味の話で盛り上がったとしても、プライベートバンクサービスの肝心要は資産運用ですから、どこかで必ず提案書をもらわなければなりません。
相談を経て「信頼できる」と思ったとしても、肝心の資産運用のサービスが大したことがなければやはり厳しい判断をせざるを得ません。
クライアントとしては「任せておけば何とかしてくれそう」などというスタンスにならないことが非常に重要です。“おまかせ”にはメリットとデメリットがあるからです。
おまかせのメリット
- プライベートバンカー自身は選択肢を幅広く持つことができるため、より良い提案を考えることだけに集中できる
- クライアント側は考えることに時間を割かなくて良いので、本業や趣味に集中できる
おまかせのデメリット
- プライベートバンカーにとって都合の良い(手数料の多い)金融商品で構成されてしまう
- クライアント側に金融商品に対する知識がつかない
提案書を通じて、プライベートバンカー自身の金融知識の度合いを測るとともに、クライアントのことをどのくらい理解した上で提案してきているかを知ることが大事です。
とはいえ、提案書の内容を読んで理解するのは難しいこともあるので、プライベートバンカーにしっかり説明してもらうこと、そして可能であれば信頼できる人と一緒に見ることは大事です。配偶者や顧問弁護士、友人でも構わないので、自分とは違った視点で、客観的に見てもらえれば安心でしょう。
口座開設後のやりとりでの見極め
4 運用報告
口座開設がなされるまでは、プライベートバンカーにとっては正式には顧客ではありませんから、必死にご機嫌を取ったりすることもあり得ます。実際顧客になってしまった後、期待していたサービスが受けられないことは多々ありますので、口座開設後にもしっかりと対応してくれるかどうかはチェックすべきでしょう。
特に、“お任せ”した運用に関しても、定期的に、そして丁寧に運用報告がなされているか、過度なリスクテイクが行われていないか、あらゆる取引について手数料が開示されているか、などは確認したいところです。
5 リレーション
プライベートバンカーはプライベートも仕事も区別がない、忙しい仕事でもありますが、仕事以外のことでも話をしたり、あるいは時間を過ごしたり、ということも生まれてきます。お互いの家族のことを紹介し合ったりということもあるでしょう。
リレーションを不安なく続けていくためにできることはたくさんありますし、それがプライベートバンカーと付き合うことの一つのメリットでもあります。