スマートベータ運用のメリット・デメリット

「アクティブ運用ファンドはもうダメだ」「結局インデックス投資が勝つことが示された」こんな言葉を資産運用業界で聞くことは多いです。ただ、インデックス投資と異なる別の手法が今注目を浴びています。それが”スマートベータ”です。

「スマートベータ」とは?

ベータというのは市場リスクをとって市場リターンを得る戦略のことで、単純化するとインデックス投資そのものです。それに対して、戦略的に銘柄を組み替えて、市場リターンを上回ったとき、アルファが生まれます。これが今までの投資戦略の大きな2つの流れです。

それに対してスマートベータは”スマートな”ベータですから、どちらかといえばアルファよりベータ寄り、でもちょっと違います。何が違うのでしょう。

スマートベータというのは、一定の運用ルールに基づいて、市場平均(単純な時価総額平均)と異なる株価指数を編み出し、それに連動した運用を行う戦略のことです。つまり、”優れた”インデックスを生み出すことに全力を注いでいるのです。

最近は、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)やCalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)なども採用しているようです。次に、スマートベータのメリットとデメリットをそれぞれ3つずつ挙げてみます。

スマートベータの3つのメリット

① 低コスト

一にも二にも最大のメリットはコストが低いことでしょう。スマートベータにおいては投機=スペキュレーションはありませんから、銘柄選定のために利用されるのは複雑な駆け引きではなく、公開された情報です。場合によってはシステムを駆使するので人件費も安いため、最も中間コストが少なく、還元率が良いということになります。(ただ、還元率が良いこととリターンが良いことは違いますが。)

② ローリスク・ハイリターン

スマートベータにおいては市場平均と異なる株価指数を編み出すと上述しましたが、なぜそんなことをするのでしょうか。それはリスクの低い銘柄に重点を置くか、リターンの高い銘柄に重点を置くか、をベースにしようという考え方だからです。そのため低ボラティリティやら高配当やらといったことが取り上げられます。ローリスク・ハイリターンが実現できればこれほど良いことはありません。

③ 運用手法の透明性が高い

ファンド運用は一般に手札(運用ルール、保有銘柄等)を全て公開することはありません。

もちろん開示度合いの高さは投資家にとって重要ですが、開示するからリターンが上がるというものでもありません。著名なヘッジファンドでは内容を一切開示しないこともあります。

一方で、一般の投資家からすれば中身の見えないブラックボックスを嫌う人もいますから、自分がスマートベータを通じてどのような銘柄に投資をしているかが随時わかることはファンドの魅力を高め得ると考えられています。

スマートベータの3つのデメリット

1 ファクターのトレンドの変化

スマートベータにおいては、”一定の運用ルール”を「ファクター」という形で表します。つまり、何に重点をおいて、市場平均からズラすのかがファクターによって決まります。

ここでは、当然ながらヒストリカルなデータも利用されますが、投資に良くある、「過去は過去」が影響をしますから、過去を遡れば優秀であった運用ルールが将来にわたって優秀であるかどうかは分かりません。場合によってはファクターのトレンドが変化していくことだってあります。

2 フロントラン(先回り投資)

運用手法の透明性についてはメリットで書きましたが、逆を言えばこのオープンな戦略が仇になり得ます。

常に手札を公開した状態で市場に向かい合うわけですから、買おうと思う銘柄を先に買われてしまって既に値上がりしていたり、あるいは売ろうと思うときには値下がりしていたりということが起こります。

公開された一定の運用ルールにしたがっているわけですから、資産規模が大きければそれだけ投資家以外からも挙動に注目されてしまう存在になります。

3 過熱状態の誘発

投資の基本は優良銘柄の発掘であるのに対し、独自の基準ではありますが、最初からパフォーマンスの良いものを選ぶ事にはなります。

メリットに書いたようなローリスク・ハイリターンがもし実現するのだとすれば、より多くの投資家がその投資手法を選好するということは目に見えています。その場合、スマートベータで選ばれる銘柄に人気が集中して、過熱状態を作り出し、結果的に損をすることにも繋がりかねません。大船に乗った結果、定員オーバーになって沈没ということも想定できないわけではないのです。

スマートベータへの投資にあたって

スマートベータには機械(AI)が行うものとヒトが行うものが存在します。

ただ、投資家であるあなた自身が意思決定をしないという点で、アクティブ運用ともインデックス投資とも大きな違いは感じないかもしれません。ただここで言えることは、投資家として運用コストを低下させることは重要であるということ、そして市場のトレンドが変わっていっていることにはアンテナを張っておき、必要に応じて乗り換えることは大事であるということです。

また、盲目的にスマートベータだから良いということではなくて、雨後のタケノコのようにスマートベータが登場したときにはまた選別していかなければなりません。

賢いはずのスマートベータ、指数連動ETFと大差ない商品に資金流入 – Bloomberg

ファンドマネージャーがより大きな裁量を持った時代から、投資家自身がより知識と経験を持って臨まねばならない時代へと少しずつ移っています。そのなかでいかに安心して、楽に資産運用ができる環境を整えられるかを考えていきたいものです。今後もスマートベータへの注目は集まりやすいと思いますので、是非情報収集に努めてみてください。

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