資金流出入に見る投資家のリスクオンの質的変化

2020年3月の歴史的な株価暴落から一転、2020年4月は月間を通じて急速な株価反発を記録しました。

一時期はベアマーケットへの突入も囁かれていたなかで、「おや?」と思った人も多いことでしょう。株価の二番底はあるか、といった議論もなされていますが、”過去にならえば”とか”実体経済と株価の乖離が大きいから”とか言ってもなかなか議論の土台としては弱い気がしますので、ETFの「資金流出入」という観点から少し今の状況を冷静に見てみましょう。

米株上昇の背景で進んだ主要インデックス投資からの離脱

2020年4月は結果として株価反発だったわけですが、果たして投資家は米株への投資を拡大させたのでしょうか。

一つの興味深い例として、S&P500に連動するETFの代表格であるVOOについては2020年4月は資金流入が顕著だったわけではないということが挙げられます。もちろんVOOは数あるETFのうちの一つに過ぎないわけですが、ここから得られるインプリケーションとして、「主要インデックス投資」に対して少し距離が置かれているということかと思います。

しかし、そんな中で株価が上昇したわけですから、次に話す「選別投資」に投資家がシフトしたことが伺えます。

セクター別、個別株式への選別投資へとシフト

米経済全体としてはリセッションを迎えることになったわけですが、業績が実際に悪化した企業、あるいは業績が同時期に向上した企業に分かれて行くことになります。

したがって、3月の段階で、主要インデックス投資に見切りをつけ、セクター別、個別株式へのシフトを行なった投資家がいたことが想像に難くありません。

ここでは個別株式を取り上げるのは省略しますが、既にコロナショック前の水準にまで戻している銘柄すらあります。

一方で、未だ事業活動が完全にストップしている企業については水準は戻っておらず、上昇の機会を探るか、あるいは本当に企業再生の道を歩むかの瀬戸際にいることが想像されます。

一般投資家の投資熱は衰えていない

一般に、景気後退局面では、株式よりも債券が選好されやすいのですが、今回のコロナショックにおいては、既にベースの金利が非常に低いので、多くの資金が投資適格級の社債に向かいました。

3月中旬には、一部現金化の動きが起こりましたが、その後は少しでもリターンを稼ごうとという投資家の熱は戻ってきているように思います。

顕著な例としては、原油価格が歴史的な低水準に陥った頃には、米国最大の原油ETFであるUSOにはこれまた歴史的な資金流入が起こっており、原油価格のピックアップにどれだけの投資家が賭けているかが伺えました。

ETFの買いは単純な原油Buyの取引にならないことは別稿でも触れたところですが、コモディティトレーダーのコメントを読む限り、一般投資家は誤解がありつつも原油相場にBetしようとしていた、ということは間違いないかと思います。

本質的なリスクオン相場には至っていない

ただ、債券の方も完全なリスクオン相場ということにもなっていません。先ほど、投資適格級の社債には資金流入があったという話をしましたが、一方、ジャンク級、投機的格付けの債券群に投資をするETFの代表格であるHYDへの資金流出入の状況は以下のとおりです。

3月中旬以降相場の持ち直しがあったとはいえ、資金流出超であることは明らかで、残念ながら市場はフルスロットルでリスクオンというわけでなく、「適度なリスク」を負うことだけを考えているようです。実際、デフォルト懸念、格下げ懸念が燻るなか、見極め切れないリスクになっていることが予想されます。

資金流出入に見る投資家のリスクオンの質的変化

さて、2020年5月に入るにあたって市場全体がブルマーケットに変わったか、は判断が分れるところでしょう。一方で、本稿で触れた視点に基づくならば、「局地的なリスクオン」が起こっていることは分かっていただけたのではないでしょうか。確かに2020年3月に一時的な「現金化ラッシュ」が起こったことは印象的でしたが、その後も投資家は依然として投資機会を求めていますし、それが相場を下支えしているということです。

こうした「ちょいリスクオン」から「フルリスクオン」に変わっていくかどうかが2020年5月あるいは6月の焦点になるかもしれません。

関連ブログ:2020年の金融市場中間振り返り