事業などを通じて一財産を築いた人のほとんどが海外信託(トラスト)の設立を検討すると言われています。トラストの最も重要な設立動機は、相続財産争いや事業資産と個人資産の切り離しにあるからです。今回は、海外信託(トラスト)を設立することによってもたらされるメリットとその注意点についてまとめてみたいと思います。
トラスト設立によるメリット3つ
メリット① 信託後も委託者として資産の扱いについて指示できる
トラストを設立して、資産を信託する場合、法的には《贈与》に該当します。
つまり、資産の名義人が委託者(自分自身)から受託者(トラスト)に切り替わります。名義人が変わるということはその時点で、委託者の資産ではなくなることを意味します。
ただし、トラストがその資産を自由に扱っていいということにはなりません。委託者はトラストに対して、資産の入れ替えや資金の引き出し、あるいは運用方法に関する指図は行うことができます。そのため、資産の扱いに関しての主導権を失うことはありませんし、信託を解除すれば資産を取り戻すことも可能です。
メリット② 複数世代にわたって管理ができる
トラストは無期限で設定することができます。
通常、個人で資産を保有していた場合は死後に相続が行われますが、トラストでは資産の名義人がトラストですから、死という概念が存在しません。そのため、家族のための財産として残したければそうすることができ、複数世代にわたって資産の管理ができます。
あるいは資産を家族ではなく第三者やチャリティに寄付することにすれば、家族以外への将来世代に対しても残すことが可能です。莫大な弁護士費用や、海外財産特有の相続手続(プロベート)も免れ、レター1枚で極めて明快に処理されることになります。
メリット③ 資産の完全隔離ができる
もちろん、法人であることによって個人資産との隔離は一定程度は行えますが、それでも個人資産が完全に守られるかどうかは分かりません。
一方、個人資産のままでは破産等に巻き込まれる可能性があっても、トラストに贈与してしまった資産は隔離されることになります。したがって、ビジネスでの失敗によって全てを失う、といったことは起こらず、再スタートをしやすいことも魅力の一つであり、それゆえに事業の成功で築いた財産はトラストに移されることになります。
トラスト設立の際の注意点3つ
注意点① トラストは金融機関とは異なる
トラストはライセンスを保有する業者しか提供することができません。
ただし、「資産」を扱うという性質から、プライベートバンクや保険会社などの金融機関と協業しているケースがほとんどです。そのため、銀行で信託を提供してくれるだとか、保険会社が信託を提供しているといった誤解が発生しやすいです。
もちろん、ワンストップサービスとして、同ブランドの下に、銀行機能とトラスト機能を別会社で持つ、それによって同じ会社が提供してくれているように見えることはありますが、本来は別々に選択することができるものなのです。
注意点② トラストに投資をするわけではない
繰り返しますが、トラストそのものは資産を管理する機能しか持ちません。
日本でも「投資信託」という言い方がありますが、これは投資のために設定された信託であることを意味しており、トラストそのものが投資リターンを提供してくれるわけではないのです。
もっと正確に言えば、信託はハコであって、信託設定された(ハコの中に入った)資産が何かによって投資リターンが返ってくることになります。なので、海外投資を動機にトラストを利用する際は、トラストだから安心だ、というのではなく、資産とその投資手法が結局は大事であることを忘れてはいけません。
注意点③ トラストの設立場所は慎重に選ぶ
コモンローが適用されるオフショア地域ではトラストは一般的なので、香港やらシンガポールやらニュージーランド、セーシェルなど、様々な場所で設立することができます。
法人と違ってオフィスがあるわけでもないので、現地に行くこともないかもしれません。ただ、それぞれの地域は独自の信託法のもとにトラスト設立ができるので、何もかもが全く一緒というわけではありませんし、法改正の可能性もゼロではありません。
長期的な目線で、自分にとって最も最適と思われる設立場所を選択する必要はあるでしょう。
海外信託(トラスト)の選択は信頼できるプロの力を借りる必要がある
トラストへの興味が高まったとして、トラスト会社を探して連絡をすれば良いかというと必ずしもそうではない面があったりします。なぜなら、先述の話を裏返せば、トラスト会社はトラストの機能しか持たないので、信託した資産を増やしてはくれないからです。
ただ単に資産を隔離するだけでなく、その後の運用のことも頭に入れておかなければなりません。つまり、なんのために信託し、そして信託資産をどうしたいのか、を明確にしておく必要があります。
孫の代まで財産を残すためには少しでも運用をすることが大事になってきたりします。その際は、事業の問題、家族の問題、あるいは法務や税務の問題が絡んでくることになるので、信頼できるプロを探す必要があります。