プライベートエクイティファンドは勝ち組で居続けられるか

プライベートエクイティ(PE)ファンドとは

PEファンドとは、未上場株式や負債といった、流動性の低い資産に投資を行うファンドのことです。

株式や債券といった伝統的資産とは異なる、魅力的なリスク・リターンのプロファイルを提供することで知られており、年金基金や保険会社など、投資ホライズンの長い機関投資家からの絶大な支持を獲得しています。

近年は低金利環境による運用難もあって、PEファンドへの資金流入が続いています。PE業界で働く人材も、投資銀行や外資系コンサルティング会社出身の、優秀な人材が集まってきています。

PEファンドのパフォーマンス

PEファンドは歴史的に上場株式インデックスや債券総合インデックスなどよりも大きなリターンを挙げており、アウトパフォームが続いています。ただし、これは業界全体での評価にすぎず、内実としては個々のPEファンドによってパフォーマンスはまちまちとなっています。中には30〜40%という大きなリターンを上げるものもあります。

株式や債券のような伝統的資産と異なるのは、リターンはファンドで行なった投資が出口を迎えたときに初めて実現する、という点です。PEファンドの寿命は概ね5〜10年であるため、投資開始から数年でリターンが出ることはほとんどありませんし、途中で投資をやめるということも現実的ではありません。

ファンドレイジング(資金調達)の方法

PEファンドの資金調達は通常の投資信託とは大きく異なっています。投資家は資金を出すことを決定する(コミットメント)段階では、PEファンドが後々具体的にどのような企業や資産に投資をするのか知る術はありません。もちろん情報がゼロでは投資家が意思決定をできませんので、ファンドマネージャーの考え方や過去の実績などをプレゼンしますが、だからといって結果が約束されるわけでもありません。

また、資金調達はコミットメントで行われ、その場でファンドマネージャーに資金が渡されるわけではありません。あくまでファンドマネージャーが投資を決定したときには何も言わずに資金を渡す、という約束をするのです。投資先企業が1社、2社、3社と増えるに従って、投資家は資金供与が増え、コミットメント上限額に到達するまでそれが続きます。

ドライパウダー(投資待機資金)が過去最高水準へ

前段で、コミットメントから実際の資金供与までタイムラグがあることが分かったのではないかと思いますが、投資までに待機している資金のことをPE業界の用語で

ドライパウダー

と言います。なぜそう呼ぶのかは業界の人でも知っている人は少ない業界用語ですが、「乾いた=まだ使っていない」くらいの意味であることは想像に難くないでしょう。

ドライバウダーはすなわちファンドマネージャーにとってのバジェット(予算)です。

予算が多いほど大きな企業、たくさんの企業に投資をすることができます。PEファンド業界に認識が集まるにつれ、様々な投資家がコミットメントを行うようになったので、このドライパウダーが近年は増加傾向にあり、およそ2兆米ドルほどあるとされています。

Global Private Equity Report 2020 – Bain & Company

バリュエーション(企業価値)が高すぎることがネック

ドライパウダーが多いことは、PE業界への人気の高さも示しているのですが、一方で、投資をする企業がないことも意味していると言われています。

背景には、未曾有の金融緩和によって上場会社を中心にバリュエーション(企業価値)が割高に向かっていること、これだけドライバウダーがあるとPEファンド間の競争も激しくなり、企業価格の上昇に繋がってしまっているようです。

ファンドマネージャーとしてもバリュエーションが高い状態で買って、さらに高くするということは費用対リターンで魅力的ではありませんから、投資を渋る、ということになっています。

コロナショックのバックストップはPEファンドか

PEファンドの投資戦略には景気サイクルの存在が欠かせません。

2020年のコロナショックで世界経済はリセッションに向かいましたので、バリュエーション(企業価値)が下がり、PEファンドとしては砂漠に雨が降った状態になりました。

ただし、現実には先に述べたドライパウダーが大量に待機しており、すぐさま企業再生のフェーズに移ることができています。

もちろん、各国の中央銀行が投資家による資産の投げ売り(ファイアーセール)を防ぐために、大規模な金融緩和策をとったことは市場の大きな支えになりましたが、同時に再生屋としてのPEファンドがその先に待ち構えていたことはコロナショックからのV字回復を早めるバックストップとして働いたのではないかと思います。

PEファンドの未来は

壊滅的な経済に陥らなかったという意味でPEファンドの存在は大きかったわけですが、それはPEファンド自身を苦しめる行為でもあります。十数年に一度しか来ないリセッションで、PEファンドとして投資の「仕込み」を仕切れなかったとすれば、今後のPEファンドのパフフォーマンスに大きな影響を与えることが予想されます。果たして、PEファンドが勝ち組として居続けられるのか、注目してみたいと思います。

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